第80話 鮎川藍 4
4
金曜日の朝に終業式で登校して、次の週同じ金曜夜に帰宅した洋二。
『友達がピンチなんだ!』とだけ母親にメールして、かかってきた電話には「後で説明する!心配しないで!」とだけ告げて、一週間はさすがに帰り辛かった。
玄関にはサイズ23程の、最近見慣れたエナメルのパンプス。
「おかえりなさい」
藍と母親・柳子が出迎えた。
「ただいま」とだけげっそりした声で洋二は告げる。
そして藍に苦笑しながら一瞥をくれる。
話はこうだ。
自分の父親が亡くなったので、洋二さんが役所や葬式の手配を気落ちした母親の代わりにしてくれた、と。
そして母親は入院して、病院の手続きまでしてもらって、先に鮎川家に来て、し辛いであろう説明をしたのだ、と。
父・超一郎はビールを吞みながら、「偉いぞ」と洋二を褒め、母は藍とせっせと肴や料理を運ぶ。
「それと、洋二、藍さんと籍入れておいたから、これからは二世帯同居だな」
―水曜から3日間、家に溶け込み、役所への届を出していたのか。だから姿見せなかったのか!23全区長!
思えば、今回あったエンマコンマたちはみんな孤立していた、又はエンマコンマになったことで孤独だった。
多分、常人もさすがにコイツはおかしいと気づいているのだ。
なおかつ高校生が謎の一週間の家出。
本人ではあるが、本人でない息子に困っていたのだろう、そのための入籍か、と洋二は思いを巡らし、父親への返答で出てきた言葉は「でも、部屋は別々でいいよ」という間抜けなものであった。
23全区長のことや学校への説明のことを食卓は話した。
この夜、洋二と藍が交わした会話は、
「怒ってない?」
「バカだなぁ、嬉しいよ」だけだった。
「本当のあなたに会いたい」
「でも、そうすると死んじゃうかもよ」
沙也とリオンは伊豆七島のとある島にいた。
どちらが先にそう云いだしたかはさして重要ではない。
エンマコンマの全員が一瞬よぎってしなかったことを二人は実行することにした。
「crack the door」
二人が同じ文句を云うと二人の顔面が割れて、中から小さい体長4センチ程の沙也とリオンが露出する。
駆け寄ったのは沙也の方だった。
リオンのコクピットボールに入り込んだ沙也。
直ぐにリオンは「close」と云い放つ。
畳敷きに縁側のある家屋、波の音に混じる、沙也のエンマコンマ・ボディが本体を失って倒れる音。
「ああ、これでいい」
「うん、これでいいね」
外気に触れて、一つのエンマコンマのコクピットボールに二人入ること、それは死が訪れるのか、それともこれは愛する者との合一の境地なのか、今この瞬間の沙也とリオンには判らなかった。
了
洋二ふたたび 東京戦争 井田雷左 @akakitino11
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