第87話 土の公爵令嬢、帝国の影

「はい、毎度あり。

 どれも私がせっかく作った魔道具なんだから、

 大事に使いなさいな」

「感謝します、魔女プレア

 (結構高くついたわね……)」




 魔女プレアの魔道具屋を訪れた私は、幾つかの対銃火器戦を想定した魔道具を実際に試してみて、使いやすそうな物を購入する運びとなった。

 元々この魔女プレアの魔道具屋って玄人好みと言うか、使う人を選ぶような癖の強い魔道具ばかりで、しかも値段も結構お高い感じなものだから、儲かっているかどうかと問われると怪しいしね。

 あと、普通のお店なら"魔女イビルアイ"を使って値引きしてるんだけど、同じ魔女であるプレアに通じる訳ないんで、結構ガッツリとお金を取られてしまったわ……。




「(でもその分、使用者の魔力の総量が高ければ高い程、本領を発揮するような物も多かったかな)」




 人間同士の争いに肩入れするのは"スター観測者ゲイザー"である魔女としてはNGなんだけど、作った魔道具を市場に流す事は特に禁止されてないみたい。

 魔道具を使う人間の行く末を観察するのもまた、魔女の役目って事ね……。




「……てかディケー。

 アンタそもそも目が良いんだから、飛んでくる銃弾くらい避けられないの?

 杖で弾くとかさ」

「無茶言わないでください」




 スター◯ォーズじゃないんだから……。

 オビ=ワンみたいに守りに特化した流派の剣の使い手とかならともかく、私はそういうの無理なんで……。




「あ、そう。

 ま、私は在庫がけるなら何でもいいわ。

 次は子供達を連れて来なさいよね。

 あの子達なら2~3個くらいはホコリ被ってる魔道具をタダであげてもいいわ」




 私には一切値引きしなかったのに、子供には優しいなあ!?

 他の魔女達もそうだったけどライアとユティにはホント甘いよね、この人達!!

 期待の若手の"魔女見習い"だから!?

 ……2人を可愛がってくれてる事に関してはありがたいけども!  






****






「エマちゃんは土属性だったのね」

「はい。小さい頃から遺跡巡りとか

 土器の発掘現場の見学とか……

 そういうのが好きだったせいかもしれません」

「なるほどー」




 後日。

 デサロにて公爵令嬢エマちゃんの2回目の家庭教師の授業を行った。

 今日はエマちゃんの基本属性である土属性の魔術を見せて貰うため、お屋敷のお庭での従業だった。空が快晴で良かったわ。

 実家が先祖代々海運業をやってるし、海に関係ある家系だから、てっきり水属性かと思ってたけど……本人の趣味趣向によって属性が転向したりもするそうだし、無くも無いか……。




「(私の娘達、ライアとユティもアグバログとの戦いの最中さなかにそれぞれ光属性と風属性に目覚めたもんね)」




 土属性は芯の強い人が多いと聞くし……エマちゃんも集中力を高めれば、きっと周囲の視線も気にならなくなると思うんだけどな。




「それじゃ、見せて貰える?」

「はい。……岩壁ロックウォール!」

「(おお……!)」




 エマちゃんの詠唱と共に。

 お庭の土中からボコッと現れる、頑強そうな灰色の岩壁。高さは4~5mくらい?

 これはどちらかと言うと防御系に属する術式なんだけど、術者の熟練度によって壁の強度や面積が全然違って来るのよね。

 ゲゲゲの鬼◯郎に出て来る、塗り壁を召喚したとでも考えると分かりやすいかしら……。




「ふむふむ……結構固そうね」




 岩壁に触れながら強度や魔力の通りが良いか、よく確認してみる。

 ……12歳の子にしては上出来過ぎる強度なのでは?

 城塞都市の総督をやっているお父様が居るくらいだし、どちらかと言うとエマちゃんは冒険者で言うところのパーティのタンク役みたいな術式向きなのかも。

 まあ、他の術も見ないとまだ全容は見えないんだけど。




「エマちゃん。

 私が教えた通り、ちゃんと魔力の解放の鍛練をやってくれてるのね。

 岩壁全体に魔力が通ってるのを感じるわ」

「はい。

 ディケー先生が教えてくださった通り、毎晩寝る前にやっています。

 初日は30分くらいでバテてしまいましたが、今は45分くらいまでは何とか」

「えっ、すごいじゃない!」




 たった数日で魔力の解放時間を15分も延長出来るようになってたのね!

 魔女の才能を秘めてるライアとユティが魔力の解放時間を1時間まで伸ばすのに1ヶ月近くかかったのを鑑みれば、僅か数日で45分まで……これはとんでもない逸材なのでは?

 あとは生来の恥ずかしがり気質と言うか、周囲の視線が気にならないように集中力を磨けば……!





「自分でも、魔力の巡りが良くなったのを確かに感じました。

 術式の詠唱も少し早くなりましたし……。

 ……ほんの僅かですが、自分に自信が持てた気がします」

「ええ!

 やれる事が増えれば、鍛練はもっと楽しくなるわ。

 公国は長い時間をかけて魔術で発展して来たけど、その奥深さ故にまだまだ研究の余地ありと言われているの。

 ……エマちゃんも魔術と一緒に、自分だけの生き方を見つけてみてね」

「……はい。ディケー先生」





 青空の下、白金プラチナの長い髪をなびかせて。

 エマちゃんは、はにかみながら笑顔を見せ、頷いてくれた。

 うーん、さすが公爵令嬢。

 何気ない仕草であっても絵になるわあ……。




「って、ごめんね?

 もうすぐ冬なのに外で術式が見たいなんて言っちゃって。

 中に戻って、室内で暖まりましょうか。

 後半の授業はそれからね」

「はい」




 私に促されるように。

 エマちゃんはお屋敷の中に戻っていき、メイドさんに紅茶を部屋に持って来てくれるよう、指示を出していた。

 ……よしよし!

 最初はどうなる事かと思ったけど、今のところはちゃんと家庭教師らしいコト、やれてるんじゃないかしら?




「あとはーーー」




 デサロの貴族の誰かが帝国軍の残党と繋がっているーーーその黒い噂の真相を確かめなきゃだわ。

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