第86話 魔女プレアの魔道具屋
「(ここに来て、まさか帝国軍の残党の影がチラつくなんて……)」
アラム君達とヴィーナの冒険者ギルドで別れた後。
山奥の我が家に帰って来た私は、晩御飯の支度をしながら物思いに
レジェグラのゲーム本編にも帝国軍の残党組織は出てきたけど……あのイベントは確か、残党が首都で起こそうとしたテロを主人公達が未然に防ぐ、って内容だったわね。
初代ガ◯ダムで言うところの、地球に降下した後も何年もゲリラ戦を続けてた、ジオン軍残党みたいなモノだったはずだけど……。
「(銃とか持ってるんだろうなあ……。
あー、ヤダなあ……。
クリント・イーストウッドとか
トム・クルーズじゃないのよ、私は……)」
公国が魔術で栄えたのに対して、帝国は科学技術で栄えたっていう設定になってる。
レジェグラの開発スタッフにスチームパンクが好きな人が居たみたいで、基本的には蒸気機関をメインに発達したみたい。
帝国本国の首都のメインビジュアルとか、もろにシャーロック・ホームズとか切り裂きジャックが活躍した19世紀末の霧立ち込めるロンドンって感じの町並みだったもんね(対する公国は何処と無く、アメリカンな雰囲気の町並みだけど)。
港町のブロケナに行った時に町中で走ってた路面電車なんかも敗戦国である帝国から接収した技術を導入してインフラを整えた、って設定だったはず。
ヴィーナやブリーチェ、デサロはまだちょっとその辺の折り合いが付かないのか、インフラの整備が遅れてるみたいだけど。
「(……相手が銃を撃った後に術式を展開してたら、間に合わないでしょうね)」
防弾チョッキみたいに最初から撃たれる事を前提とした防御重視の術式を、強い衝撃を受けたら発動するように事前に仕込んでおいた方が良さそう。
まあ、バックトゥザフューチャーの3作目でマイケル・J・フォックス演じる主人公のマーティがやってたみたく、心臓の辺りに鉄板を仕込んでおくなんてのは、ちょっと無理あるしね……移動の時に邪魔だし。
『デサロで仕事をやるなら用心しといた方がいいぜ、ディケーさん』
アラム君もああ言ってたし、確かに用心するに越した事はなさそう。
そっか、昨日デサロの町中を歩いた時、観光客やら冒険者に混じってデサロに駐屯してると思わしき公国軍の人達の姿をちらほらと見掛けたのも、帝国軍残党の動きに目を光らせていたのかも……。
「母様、これもうテーブルに運んでいい?」
「いいわよ、ライア。やけどに気を付けてね」
「はーい!」
「お母様。食器の配膳が整いました」
「ありがと、ユティ」
……ま、考えても仕方ないか。
次にデサロに行くまで数日あるし、その間は子供達とゆっくり過ごすとしましょう。
最近構ってあげられなかったからなあ……。
「そうだわ。
デサロの公爵様のお嬢様が持ってた魔術学校の教本を何冊か読ませて貰ったのよ。
御飯を食べながら、どんな内容だったか教えてあげるわね」
「「わーい!!」」
子供達も来年から通う魔術学校への期待大って感じね!
……そうだわ、今度デサロに行く時は少し早めに行って、町の中にある魔術学校がどんな様子なのか、外観だけでもチラッと見せて貰うのも悪くないかもしれない。
海の側にそびえる城塞都市の中の魔術学校、雰囲気は物々しいけど立地としては守りは万全だし、通わせている親御さんからしたら悪くない環境だったりするのかしら……?
****
「久々のお客かと思ったら……。
……何だ、ディケーかあ」
「そんな塩対応しなくてもいいじゃないですか……」
翌日、私は一人の魔女を訪ねた。
『魔道具の作成に悩んだ時は私を訪ねて。
魔女って事を隠して、町で魔道具屋をやってるの』
ってライア達に言ってた、魔女プレアのお店ね。
とは言え、何処の町でお店をやってるのか聞いてなかったものだから「プレアのお店のある町に通じますように」って念じながら納屋の扉を開けたら……何と、プレアの開いている魔道具屋の玄関から直通で来れちゃったって言う……前にディケーがこのお店に来た時、直接空間を繋げておいたのね、きっと。
「ああ、えっと……。
ご、ご無沙汰しております、魔女プレア」
「ええ、そうね。ご無沙汰、ディケー。
てか何よ、いつもは無遠慮に店に上がり込むくせに。
子供達を引き取ってからアンタ、少し性格変わった?
まあこれまでがちょっと態度デカかったもんね」
「うぐ」
ひっどい言われようですやんか!
いやまあ、それだけ私が憑依する前のディケーが先輩の魔女達に対して大きな態度取ってたって事か……。
「ま、普段は滅多に客も来なくて暇してるしさ。
子供達じゃなかったのは残念だけど、この際ディケーでもいいわ。
何か用があって私を訪ねたんでしょう?」
「は、はい、実は……」
デサロで仕事を今後も続けるなら、帝国軍の残党と交戦する事もあるかもしれない。
銃火器を相手にした時に優位に立てるような術式を発動出来るような、携帯可能な魔道具があったりしないか。
私が魔女プレアの魔道具屋を訪ねた理由は、それだった。
しかして、プレア曰く、
「ふん、帝国軍ね……。
まだ残党がこの大陸に居たのは知ってたけど……そう、アンタの今の仕事先でねえ」
「まだ実際に遭遇した訳ではないんですけど。
もし遭遇して交戦した場合に備えて、万全を期しておきたいと思いまして」
……私に何かあったら、ライアとユティが路頭に迷ってしまうから。
そんな私の決意というか雰囲気を察したのか、プレアは気だるげにカウンターの椅子から立ち上がると、
「……そうね。
ま、無い事は無いわ。
待ってなさい、幾つか使えそうなのを持って来たげる」
ーーーカウンターの奥の暗がりの部屋へと、のそのそと姿を消したのだった。
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