第23話 責任を取っていただけますか
「あら、少し髪が痛んでるわよ」
「!?」
ちょっとだけ脅かしてやろうと、つい出来心で。
私は魔女としての正体を現しつつ、すこーしだけ悪役ムーヴをかましてみる事にした。
私の魔力に呆気に取られていたサラさんの目の前で
「トリートメントはしてるのかしら?」
そっと耳元で囁きながら、両手でサラさんの首筋に触れ、髪を撫で上げた。
背中越しなので、その表情は伺いしれないけれどーーー私が触れた瞬間、サラさんの小さな肩が身体ごとビクン!と強張るのが分かった。
「可愛い形のお耳ねぇ」
夢にまで見たエルフのとんがり長耳が、そこにあった。
日本だと長耳女性エルフはロードス島戦記のディードリッドが元祖って言われてるけど、まさに私の求めていたのはこれなのよ! 剣と魔法の世界の醍醐味でしょう、エルフの長耳!
実写映画のロード・オブ・ザ・リングでオーランド・ブルームが演じてたレゴラスも耳はとがってたけど、長耳じゃなかったもんねえ……。
「エルフの耳に触るのは初めてだわ。
……ふぅん、こういう感触だったんだ?
素敵な触り心地ね」
すりすり……。
指先で触れ、撫であげる。
壊れ物を扱うように、優しく、丁寧に。
「あっ……あ……っ!」
「可愛い声も出せるのね」
じんわりと、サラさんの首や耳が徐々に熱を帯び、汗ばんでいく。肩もガタガタと震え始めた。
ふんふん、私も悪役ムーヴ結構いけますやんか!
あー、小泉八雲の耳なし芳一に出てきた平家の亡霊みたいな気分!
いや、引き千切らないわよ!? 可哀想でしょ!
ここは優しく愛でてあげないとね。
「んんっ……あ、あっ……!」
「くすっ、震えてるわね。
でも、誰も助けになんて来ないわよ?
正体を現す寸前に部屋に結界を張ったの。
私の魔力は外に一切漏れず、誰も検知出来ない。ドアも絶対開かない。
……貴女はこれから私の
嬉しいでしょう? 嬉しいわよね?」
勘のいいメイドは嫌いだよ!
……とまでは言わないけど、正体を明かしてしまった以上は、サラさんにも"共犯"になってもらわないと、ね。
「親切心から呪いを解く手助けをしてあげようと思っていたのに……。
魔女を疑うなんて、いけない子ねーーーサラ」
冒険者ギルドに魔女の正体をバラされて、スキマ時間の有害召喚獣駆除のアルバイトが出来なくなっても困るし……念押しに、もう少し脅しちゃえ!
「かぷっ」
「ひいっ!?」
サラさんの短い悲鳴が聞こえたけれど、今はスルー。
魔女を怒らせると、すっごい怖いんだぞー!
「このまま、噛み千切っちゃおっかなぁ……?」
身体から
強い魔力を持つエルフのサラさんだからこそ、こんな近距離でも正気を保ててはいるけれど、多分フツーの人相手にやってたら発狂もしくは気絶してるんじゃないかなー、と思う。
我ながら凄まじく
「あっ、あ……あっあっ、あっ……!」
ダメ押しに、少しだけ強く口許に力を入れて「さあこれから噛み千切りますよ!」とでも言わんばかりに、サラさんの耳をクイッと、真横にゆっくりと引いてみる。
しかして、
「わァ…………ぁ………!」
泣いちゃった!!!
****
「……貴女とはもう一生、口を利きたくありません」
「ごめんって!
何度も謝ってるじゃん!!
ちょっと脅かそうと思っただけなの!!!」
「………
「冗談、冗談だから!
私も正体がバレちゃうと今後色々やりにくいから、口封じに少しイタズラしようと思っただけってゆーかぁ!!!」
まあ結局。
サラさんが恐怖に耐えきれなくなって泣き出してしまったので、ここでネタバラシ。
顔を真っ赤にして腕組みしながら、プンスカと
「魔女様はかつての深淵戦争においても、我々エルフと共に異界の魔物と戦った同盟者。
私も幼い頃より憧れを抱き、いつかお会いしたいと思っていた存在です。
……それを、私の幼い頃からの憧れを、貴女という人は!!!」
「だから、ごめんって!」
やばい、ムッチャ怒ってる!
美人は怒ると怖いって言うけど、マジね!
「てか、耳に触って、ちょっと噛みついただけじゃん!
それくらい許してほしいなあ、なあ!?」
「許せるものですか!
エルフの耳に触れると言う事の意味が、お分かりになっておられないようですね!」
「???」
えっ、どゆ事?
「……我々エルフは元々、狩猟民族です。
獲物を追いながら各地を転々とした過程で、狩りに必要な五感が発達し、特に耳はこのように長い形へと時間をかけて進化しました」
「それは私も知ってるけど……」
トールキンの指輪物語のエルフだと、気に入った獲物の種族が絶滅するまで狩るっていう、だいぶアレな感じの側面あったりするもんね。……レジェグラの世界のエルフは違うのかしら?
「……鋭敏な聴覚を手に入れたのと同時に、耳は非常に敏感な部位となり……エルフにとっては……せ、性感帯とも、なったのです」
「……えっ?」
んん?
い、今なんて……?
せ、性感帯って言った……?
「自身が認めた唯一無二の相手にしか、耳を触らせてはいけないのです!
私は生まれて220年、ずっと自身の貞操と純潔を守り続けていたのに……こ、こんなコトで、よもやキズモノにされるとは……!」
「キズモノって……」
ちょ、待ってよ!
そんなエロ設定、私は知らないわよ!?
設定資料集にもアートブックにも載ってなかったし!
開発スタッフの誰かがテキトーに考えた、裏設定か何かなんじゃないの……!?
「(そもそもレジェグラは、えっちなゲームじゃありません!)」
CERO Bだから対象年齢12歳以上の健全なゲームだよ!
今、絶対この会話のせいでレーティングがCERO Cの対象年齢15歳以上くらいに跳ね上がってない!? 大丈夫!?
性感帯ってCERO Bのゲームのテキストに表示してOKな訳!?
「(……いや! そう言えば、キャラデザ担当絵師が出した非公式の同人誌に!)」
レジェグラ本編で主人公の仲間になるエルフの女性キャラの描き下ろしイラストの横に、小さく走り書きで「耳は性感帯です(笑)」とか書いてあったわね、確かに!
あ、あの絵師の
「(公式の絵師とは言え、非公式の同人誌に描かれてた設定まで、フツー拾う!?)」
やっちまった感あるわね!
このレジェグラの世界に来てから、エルフに出会ったのはサラさんが初めてだから、そんなの全然気づかなかった……いや、私も確かにちょっとやりすぎたかもだけどさあ!
「……責任を、取っていただけますか」
サラさんが涙目で訴えて来る。
悪いのは全面的にこちらなので、もう私は黙って頷くしかなかった。
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