〜コミカライズ記念〜ある日のことベンヤミン
「ベンヤミン、ちょっと修行に行って欲しいんだ」
突然レンス王子殿下に呼ばれたと思ったら。修行!?
「しゅ、修行ですか?」
「うん。大丈夫厳しくはないよ。多分。父上ばかりファルマの料理を食べていてずるいと思うんだ。僕も食べたいからベンヤミン、教わってきてくれるかな?」
「畏まりました」
俺は殿下の命令でファルマの下に行く事になった。殿下の話ではホルムス殿下の住んでいる村だったな。俺は他の奴に厨房を任せて準備をする。
ファルマと会うのはいつぶりだったか?そうだ、王宮でしか手に入らない食材もいくつか持っていこう。
そうして俺は馬車を乗り継いでホルムス殿下の居る村へと向かった。
「ごめんください。ホルムス殿下はいらっしゃいますか?」
「あ!ベンヤミンさんっ!久しぶり。今日はどうしたの?」
「おぉ、ファルマ。久しぶりだな。今日からここに世話になると手紙を出していたんだが。ホルムス殿下はいるかい?」
「師匠なら今は部屋に篭っているよ。あー王宮からの手紙をそこら辺に読み捨てていたからそれの事かな。すぐに師匠に伝えてくるね。ベンヤミンさんは中へどうぞ」
そうして俺はファルマに部屋へ案内されテーブルでお茶を飲んでいると、ファルマの元気のいい声と共に扉が開いた。
「ベンヤミン。久しぶりですね。滞在は一週間ほどでしたか。今は陛下の従者も居ないので空いている部屋を使っていい」
ホルムス殿下は面倒そうな仕草をしながらも滞在許可を出した。なんだかんだとレンス殿下の我儘も聞いている優しい人なのかもしれない。
「ホルムス殿下、有難うございます」
「……あぁ、殿下はいらないから」
「畏まりました」
俺は緊張しっぱなしだった。けれど、そんな俺と違ってファルマとても喜んでいる様子。
「ベンヤミンさんは一週間ここに泊まってどうするの?」
「ファルマは何も聞いていなかったのか。レンス殿下からの命令でファルマの下へ行き、料理の修行をしてこいって言われたんだよ。レンス殿下もファルマの料理が食べたいんだってさ。俺も新しい料理を作りたいと思っているから一週間長いようで短いかもしれないが宜しく頼む」
そうして俺の修行は始まった。
ファルマは日の出と共に起きて畑の手入れをするのが日課らしい。俺は早朝から騎士団の朝食を作っているため朝が早いのは慣れている。ファルマの育てている野菜にも興味があった俺は急いで庭に出てファルマの手伝いをする。
ファルマはスキルを使って虫を呼び受粉をさせたり、野菜の剪定をしたりしている。一つ一つ丁寧に植物と接している。その様子を見れば美味しい野菜が出来るのも納得だな。
「ベンヤミンさん、おはよう!野菜が採れたからサラダにでもしようかな」
「ファルマ、相変わらず野菜を育てるのが上手いな」
俺はファルマからトマトを一つ貰い、齧りつく。やはり味が濃い。ファルマの野菜を買っていた頃は騎士団の奴等も文句を言わずに野菜を食べていたが、今ではマヨネーズがなければ食べたくないと文句が出る始末。
これほど美味い野菜が手に入らないからマヨネーズで味を誤魔化しているのは仕方がない。
「ベンヤミンさん、朝はあまり食べない派?」
「俺は三食きっちり食べるぞ?朝から肉でもなんでも食える」
「分かった~」
ファルマはそう言って厨房へと入っていく。俺もしっかりと後に付いていく。
厨房は驚くほど清潔に保たれていて知らない調味料が所せましと並べられていた。
「ファルマ手伝う事はあるかな?」
「じゃぁトマトとチーズを切ってお皿に交互に並べて」
「分かった」
そうして俺が野菜とチーズを切った後、ファルマはその上から油とバジルを掛けていた。どうやらこれをパンに乗せて食べるらしい。出されたパンは王都で食べる物よりも柔らかいが少し焼いているせいかカリカリと中はふんわりしていてバターを塗るとそれだけで美味しそうだ。その上にファルマが魔法で冷やしたトマトとチーズを乗せている。
「今日の朝食も美味しそうですね。ではいただきましょう」
どこからかフラリと現れたホルムス様。ファルマの朝食はやはり美味しいのか。ホルムス様に恐縮しながらも俺は朝ごはんを食べる。
「!!!このパン、なんて美味いんだ。パンの上に乗せられた冷えたトマトとチーズが絶妙だ。おかわりを貰ってもいいだろうか?」
「ふふっ。まだまだ沢山パンはあるから一杯食べてね」
「ベンヤミン、私の分まで食べ過ぎないように」
ホルムス様に苦言を呈されてしまった。
意地汚いと思われたのか?
いや!だが!美味い!意地汚くてもいい。後悔はない!
俺はもちろん食後にこの柔らかいパンの作り方を教えてもらった。これなら騎士団でも作る事が出来る。
それから俺は毎日ファルマの手伝いをしながら過ごした。今まで何を食べてきたんだろうかと悩むくらい刺激的な食事だった。
食べつくす勢いで食べた。美味い。ファルマは「家庭料理だから王宮料理の方が美味しいよ」と言っていたが、騎士団の食堂でファルマの食事を出されたら騎士達は食堂から出てこなくなる事は間違いない。
前回渡されたレシピも騎士達を虜にした。今回も騎士達は絶対に虜になるだろう。白身魚の天ぷらや肉じゃが、オムライス、トンカツなど様々な料理が出てきた。
こんな村に米があったり、調味料や香辛料が豊富だったりするのはホルムス様や陛下がファルマに取り寄せて渡しているからなのだろう。
俺は正直ずっとここに居たいと思ったが、ホルムス様はそろそろ帰れとチクチク言ってくる。中々に嫉妬深い男らしい。ファルマと一緒に厨房にいる事が嫌なようだ。まぁ、その気持ちも分からなくもないが。
毎日必死で修行をしていると予定していた日を過ぎていた。
一週間過ぎた時にレンス王子から手紙が来た。
まだ学びたいと返事をすると、今度は陛下が家に突撃してきた。
どうやらレンス王子や騎士達が首を長くして待っているらしい。
陛下はファルマの食事を食べながら『騎士達が唐揚げ欲しさに暴動を起こしそうだ。早く帰ってやれ』と言っていた。
どうやら陛下はこの後二日ほど泊まっていくらしい。俺は泣く泣く帰る事にした。
「ホルムス様、ファルマ。短い間でしたがお世話になりました。王都へ戻り、騎士達に食事を作ってきます」
「ファルマの料理をどんどん広めて下さい。王都の食事の質が上がれば来なくてもいいですからね」
「なんじゃホルムス。ファルマの料理を独り占めするつもりか。まぁお前が駄目だと言っても儂は来るがな」
「もう、二人とも。ベンヤミンさんまた来てね。あっ、お土産。魔蜂の蜂蜜。コーバスさんと仲良く食べてね」
魔蜂!?
王族でも滅多に口にする事が出来ない品だろう。スキルを使って採取しているのか。
「有難う。じゃぁまた来るよ」
俺はホルムス様達に挨拶をした後、馬車に乗り込み王都へと向かった。
その後、もちろんレンス王子に料理を振舞い、褒めていただいたのは言うまでもない。
それとコーバスに自慢しながら目の前で魔蜂の蜜を食べた事も言うまでもない。
親から見捨てられました。自力で生き抜いてみせます。 まるねこ @yukiseri
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