第51話

「お待ちしておりました。レンス王子殿下、ファルマ様。まずは宿にご案内します」


そうして転移してすぐに騎士に連れられて歩き出す。案内された宿は王族が泊まるために建てられた立派な邸だった。もしやこの邸は王族が避暑地として使うとされている御用地なのかしら。


そんな邸に庶民の私が入ってもいいの?なんて思いながら邸に入ると、内装も素晴らしく、玄関ホールにはタナトス様の絵が飾られていた。そして私は客人用の部屋へ従者が案内してくれるらしい。


「ファルマ嬢、この後街に出て買い物に行くのかな?ついて行くよ」


そうレンス王子は声を掛けてくれた。そうだった。ここは王都と違って少し肌寒いので分厚い服を買おうと思っていたんだ。あ、でも騎士団服を貰ったので要らないんだっけか。でも街は見て回りたい。


「レンス殿下、有難うございます。けれど、女性の買い物に付き合ったら最後、暇を持て余すだけでつまらないだけですわ。私は1人で買い物にいけるので大丈夫ですよ」


1人で気軽に買い物に行きたい。


「この街は治安が良いとは言え、女性を1人にさせるわけにはいかないからね。君の事も知っていきたいし」


いえ、知らなくてもいいですよー?


心の中ではそう呟く。でもレンス王子のご厚意を無下にしてはいけないよね。


「有難うございます。ではすぐに準備して参ります」


 騎士服なので本当に荷物を置きに行くだけなのだけどね。これが貴族令嬢であればお着換えをして髪を直して、と時間が掛かっていたかもしれないけどね。


私が従者に案内された部屋は木の香りがする落ち着いた部屋だった。何の木が使われているのかしら。日本なら檜や檜葉のような木が有名だけど。それとは香りが違うのよね。木の事はさっぱり分からないから聞いてもふーんで終わっちゃうけどね。


出来るならここで1日ゴロゴロして過ごしたい。まぁ無理な事は分かっているけどね。そういえば、この仕事って給料はちゃんと出るのかな?聞くのを忘れてたよ。まぁ、出る前にちゃんと師匠からお小遣いを貰ったので生活は大丈夫だけどね。私は荷物を置いてすぐ玄関へと向かった。


「ファルマ嬢、早かったね」


「ええ。着替えが無いので。ところでレンス殿下、巡回騎士団への合流はいつになるのですか?」


「今、ちょうど巡回している最中だろうから午後騎士団が帰ってきてからになるよ。それまでは自由時間だよ。さあ、行こう」


 そうして歩いて街に出かける。街はさほど大きくはないが、王族が利用するだけあって整備されていて綺麗な街だった。私は八百屋や肉屋が目に入る。やはり住んでいる村とは違った品物が置かれている。


食べてみたいなぁ。


私ならこれを使ってどんな料理を作ろうかと想像してワクワクする。


「ファルマ嬢は兄上と暮らしていると聞いたけど、料理をするのかな?」


「そうですね。掃除も洗濯も料理もしますわ」


「ファルマ嬢から苺を貰って食べた後、ベンヤミンに苺を部屋まで持ってきて貰ってね、君の話を聞いたんだ。あれから騎士団食堂の料理は劇的に変わって王宮に働く者達が羨んでいたんだよ。


あまりの要望の多さに王宮料理人がベンヤミンに調理法の教えを請うたようで僕達が口にする料理も変化が起きたんだ。君には感謝しているんだ。本元である君の手料理を食べてみたい」


「ふふっ。お褒め頂き有難うございます。機会があれば腕を振るわせていただきますね」


そう話しながら私達は次の店へと向かった。結局私は寒いといけないので魔物皮で出来たローブを買ったの。内側に毛皮が付いていて温かくなっている。


後は日用品の類。薬類は店を覗いただけで買わなかった。師匠にお土産にしようにもまだ来たばっかりなので帰る時に買う予定にしている。


 街はやはり治安が良かったわ。女の人や子供が通りを歩いているのを見かけたもの。休日は1人で食べ歩きに出かけて見ようかなって思ったわ。王子様と出歩くなんてやっぱり気を使う。


こんなにイケメン滅多にいないよ?


道行く女性たちがみんなレンス殿下に目を向けているもの。その熱量と言ったら。横に私が居るのが申し訳ないくらいだわ。そろそろ巡回騎士団が街へと帰ってくる時間になったので私達は駐留している詰所に向かった。


「レンス王子殿下、ただいま帰還致しました」


敬礼と共に発せられた声。巡回騎士団の方々がちょうど帰って来たみたい。レンス王子が手を挙げる。フェルナンド団長さんと何人かの騎士さんと目が合った。


メンバーの大半は知らない人だったわ。巡回騎士団は王都勤務の騎士団員の交代制だったよね。ずっと指揮を続けているフェルナンド団長さんは凄いね。フェルナンド団長さんが騎士達に向かって声を掛ける。


「只今より、レンス王子殿下の指揮下に入り魔物の増加原因を探る事となる。そして知っている者も居ると思うが、今回特別に招聘されたファルマ嬢である。


ポーション作成者のホルムス様の1番弟子であり、少しではあるが光魔法も使えるファルマ嬢はレンス王子殿下の補佐として任務する事となっている。可愛いからと言って無礼を働くな!言っておくが彼女は私より強い。礼儀を持って接するように。以上だ」


一言余計だよね?


何、可愛い子に向かって私より強いって。酷いよね!?。フェルナンド団長さんに比べれば私なんてその辺の石ころと変わらないのよ!?ともあれ私は騎士達に挨拶をした。その後、フェルナンド団長さんから詳しい話を聞く事になった。


「お久しぶりですフェルナンド団長さん。今回、殿下の補佐として呼ばれたわけですが、明日からの動きを聞いてもよろしいですか?」


「ファルマ嬢、久しぶりだな。その事なんだが、日に日に魔物が増えているようなのだが、何処から来ているのかまだ分かっていないんだ。予想としては霊峰ラーシュに何らかの異常が起きたのだろうと思っているがなんせ巡回騎士団だけでは治癒士が足りないと思ってな。


ポーションをその場で作れる者と火力、そして食事が作れる人材が欲しかったんだ。特に食事は切実だ。美味い物を食べねば力や士気は下がる一方だ。攻撃についても今はまだ騎士団のみで対処出来ているが、レンス殿下が指揮すればかなり変わってくるだろう。増援を待っていた。明日から3日間を目途に山の調査に入りたいと思っている」


山に入るのかぁ。雪は山頂にしかないとはいえ寒いだろうなぁ。今回ポーションは粉の状態で持ってきたのよね。瓶に入れて魔法で水を注いで魔力を加えてその場で完成させるようになっている。


 ポーションも日に日に性能も使い勝手も良くなってきている。師匠が新たに用意してくれた護符の付いたリュックをちゃんと持ってきた。ダシも持っていこう。これがあるだけでかなり違うからね。


「レンス殿下は登山をしたことがあるのですか?」


「無いよ。まぁ、魔法もあるし何とかなるよ」


えっと、大丈夫かしら。


後でこっそり川で石を拾って小袋何個か持っていく事にしよう。火魔法で温めてカイロ代わりにポケットに入れる事にするわ。騎士服がズボンで良かったよ。


「騎士団の食事はファルマに作って貰いたいと思っている」


やっぱりね。そう言われると思ったよ。分かりましたと私は頷いておいた。


この後、香辛料を買いに行かないとね。寒いなら少しだけ辛味を付けたスープがあってもいいよね。切実にコショウが欲しいわ。そして寒い地域ならカロリーも高めのスープがいいわよね。と色々と考え始める。


「フェルナンド団長さん、では私は持っていく食糧を見てから不足分を街に買い足しに行きますね」


「あぁ、買い足しに行くならザロを連れて行ってくれ」


「分かりました」


私はそのまま詰所の食糧庫へと向かった。

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