第46話
「師匠、タナトス様。おはよう、朝だよ」
私はいつものように師匠を起こし朝ごはんの用意をする。タナトス様は先に目覚めていたようでさっと席について朝食を待っていた。
「ホルムス、ファルマ。おはよう」
師匠はまだ眠いようで寝ぼけ眼で顔を洗い席についた。今日の朝は溶き卵入り野菜の雑炊にした。胃にとっても優しい朝食。ここに来て初めてのお米だと思う。いつもパンだしね。
日本人なら米や味噌汁を数日食べないと落ち着かなくなって食べたくなる人が多いらしいんだけど、私はこの世界に住んで長いせいかそこまで米を渇望する事はないんだよね。でも食べたら食べたで懐かしくて美味しくて毎日食べたくなるんだけどね。
「タナトス様、師匠、どう?雑炊を作ってみたんだ。昨日いっぱいお酒を飲んでいたから朝は消化の良い物にしたよ」
「ファルマ、有難う。この雑炊という食べ物、優しい味がするな。儂はこの味が気に入ったぞ。なぁ?ホルムス」
「・・・ええ。そうですね。優しい味ですね」
師匠はぎこちないながらもタナトス様と接している。師匠にとっては家族と過ごす時間なんて殆ど無かっただろうし。家族の出来てしまった溝が少しでも埋まるといいなぁ。
朝食を終えた後、私は畑の様子を見に行く。どうやらタナトス様も一緒に手伝ってくれるみたい。私は丁寧に薬草の新芽を摘んでいく。
「ファルマはいつもこうしているのか?」
「うん。私は生活魔法が得意だからこうやって土魔法を掛けて植物の成長を促しているの。ほらっ、このトマト食べてみて?きっと王宮で出されるトマトより美味しいよ。騎士団食堂の料理長のベンヤミンさんが美味しいって唸ってたんだから」
私はトマトを一つ収穫して清浄魔法を掛けてからタナトス様に差し出した。
「!!美味いな。フルーツのような甘さだ」
「でしょう?(この世界で)私だけが作れるトマトだよ。他の人は魔法で一気に植物を育てるんだけど、私は植物を見ながら魔法で成長を助けるだけなの。後は植物達が頑張ってくれるんだよ」
そして私はスキルを使って蜂を呼び寄せる。そこに来たのは魔蜂。最近の私のお気に入りなんだよね。
魔蜂は本当に偶然見つけたんだ。森から少し入った所の大木の洞に巣を作っていたのだ。
魔蜂の大きさはスズメバチの3倍程の大きさ。結構大きいが数は少ない。そして彼等の作る蜂蜜は数が少ないが一級品なのだ。詳しい生態は分からないけれど、ここら辺にしか咲かない花の蜜を貯める習性みたいなんだよね。勿論普通の蜂も発見していて普段はそちらの蜂さんから蜜を頂いている。
私は2つの瓶のうち1つは魔蜂の蜂蜜と巣を入れ、もう1つには普通の蜂が持ってきた蜂蜜と巣を入れる。
「ファルマ、今のは?蜂が襲ってこなかったが。スキルか?」
「うん。私のスキル。虫達を従わせる事が出来るの。このスキルのせいで親に捨てられちゃったんだけどね。この蜂蜜、すっごい珍しいんだよ?タナトス様でもたまに口に出来るかどうかでしょう?」
「ああ、そうだな。とても珍しい蜂蜜だ」
私は得意気に蜂蜜を見せびらかす。
「我が家では毎日蜂蜜を使ったデザートを作ってるの。砂糖は売ってないから。でも、とーっても美味しいんだよ」
「それは楽しみだ」
私達はふふふと笑い合い家へと戻る。そこから私は店番をしながら昼ごはんの準備、タナトス様は師匠の様子を見ている。
今日のお昼はトマトの冷製パスタとジャガイモのスープがいいかな。私はミルクに特製ダシを入れてジャガイモをすり下ろす。簡単なんだけど結構好きなんだよね。あージャガイモ料理で思い出した。コロッケを作った事が無かったわ。
今日の晩御飯はコロッケにしよう。
「師匠、タナトス様お昼ご飯だよー」
3人で席について食事を始める。私は畑で蜂蜜を採った時に思った事を口にする。
「そういえばさ、薬って飲みやすい物はないんだよね?」
「薬は苦くて不味いのが一般的だね」
「儂も薬は苦手だな。飲みやすい薬は聞いたことがない」
「そうなんだ。錠剤とかオブラートとかシロップとかならみんな飲みやすそうなんだけどなぁ。師匠のスキルで錠剤化ってないの?」
「そもそも錠剤ってなんだい?オブラート?シロップは甘く子供受けしそうだけど甘味は高価だから難しいよ」
「錠剤っていうのはね、粉をぎゅーって圧力を掛けて小さいサイズにした物だよ。ほらっ、例えば水分のある土をぎゅーって握ると形になるでしょう?あんな感じ。小指の爪位の大きさなら飲み込みやすいでしょう?それに苦くない。オブラートはすぐに作れるよ?家で作ってるデンプンを薄く伸ばして乾燥させれば作れるもん。薬を包んで苦味を感じにくくするやつだよ」
師匠は興味深そうに頷きながら聞いている。きっと飲む人の事までは考えていなかったのかもしれない。タナトス様は目を見開いて驚いた様子だ。
しまった。異世界罠を発動してしまっていたわ。
「ファルマ、面白いですね。ちょっと今からやってみます。ファルマもオブラートという物を作ってみてくれますか?」
「いいよー。タナトス様は風魔法は得意?」
「あぁ、儂は風魔法が得意だが?」
「じゃぁ、作るのを手伝って欲しいな」
「おぉ、儂にも手伝える事があるのか。やるやる、やるぞ」
私達は食器を片づけて師匠は部屋へ戻り、私とタナトス様はキッチンに立った。
「タナトス様、この粉はジャガイモから採った粉なの。水で溶いてから、火にかけて沸騰させると、こうやってドロドロになるんだ。これをもう少し水分を飛ばして、バットの上に乗せて広げる」
オブラートは作った事はないけど、作り方位は知ってる。ナイフで均一に薄く伸ばしていく。これがなかなか難しい。
「儂もやってみたい。代わろう」
タナトス様と交代すると、彼は器用に伸ばし始めた。とっても上手。はっ、やはりここでも自分の不器用さを思い知らされる。
「タナトス様、とっても器用ですね。私は上手くない。師匠の作る薬を真似てみても未だに上手く作れないんだもん」
「これは中々楽しい作業だな。一見地味だがコツがいる。ファルマは不器用でいいんじゃないか?その代わり、植物を育てたり、料理を作ったりする事が得意なのだろう?人間誰にでも得手不得手はあるさ。それに先ほどの話、我々にはない知識を持っていそうだな。知識は宝であり、武器だ。ホルムス以外に口にしてはならんぞ?」
「うん。分かった。タナトス様、広げ終わったら風魔法で乾燥させて欲しい」
「お安い御用だ」
タナトス様は風を出し、均一に広げたでんぷんを乾燥させていく。やはり魔法を使うと乾燥は早いね。あっという間にパリパリになった。端からペリペリと綺麗に剥がしていく。ここでも器用さが問われた気がする。何事も練習あるのみだわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます