4.アイドルのライブ

 休みの日になった。ぼくは休みの日は、予定がなければオナニーする。午前に三回、午後に二回、夜に二回する。夕方に散歩をする。

 今日は久々に噴水広場に行ってみようと思った。いつもは商店街の近くをぐるぐる歩いているけれど、たまには寄り道したかった。

 もう、おばさんがイジメられていないといいな。ぼくは思った。

 噴水広場には、今日は大きめのステージが設置されていて、その上で男の人たちが歌って踊っていた。

 アイドルだ! 神213かもしれない。

 ステージの前には人だかり。色とりどりの棒を振り回している。

 神213かもしれない。

 ステージで踊っている男の人たちの後ろに横断幕みたいなものが置かれていた。

「やー(1)」と書かれている。

 やー(1)。男性アイドルだ。マイクを持って踊っている。スピーカーからどんどん音が撥ね飛んで、地面がびりびりと揺れている。男の人たちは汗をきらきらと散らして笑顔で歌っている。

「反省的視点の欠如。反省的視点の欠如。緑色は最初から緑色ではない。自己を疑え、認識を疑え。お前は人間だが、最初から人間ではない。人間を認識しろ。認識を認識しろ」

 なにか大事なことを訴えている気がして、ぼくは歌に聞き入った。

 やー(1)のメンバーの歌声はあまり綺麗ではなかった。踊りもイマイチ。

 ステージのすぐ下で大きなザルを頭の上で支えている人がいて、やー(1)を応援している人たちは次々にお金をそこに投げ込んでいた。ザルを持っている人は五人くらいいて、よく見ると歌っているのも五人だった。真ん中の赤い服を着た男の人の前のザルに、お金が多く入っていた。右端の緑の男の人の前のザルにはほとんどお金が飛んでいかない。

 格差だ。ぼくはまた思った。イジメじゃないか! どこにでもイジメがあって、もうどうしようもなかった。生きていれば必ずイジメを目にすることになる。生きている限りずっとぼくの目の中にイジメが入り続けると思うと、辛かった。

 音楽が止んだ。ステージ上で、メンバーたちが話し始めた。

「いやー今日も暑い中ね、こうやって僕たちのライブを見に来てくださって、本当にありがとうございます」

 真ん中の赤い人が言うと、「むっすー!」という声がいくつも飛んだ。赤い人が手を振ると、歓声が上がった。

「改めまして僕たち、やー(1)でーす!」

 赤い人が続けた。

「メンバー一の熱い男。赤い炎でみんなのハートをアツアツにします。やー(1)のリーダー、「むすぬ」でーす。次はこいつだ」

 次に青い人が手を挙げた。

「はーい、皆さん盛り上がってますかー。うんうん。ありがとう。皆の気持ちがブルーな時も、俺が駆け付け元気にします。歌声アンド盛り上げ隊長「けいそかん」でーす。よろしく」

 次に黄色い人が手を挙げた。

「はい、皆さんこんにちは、やー(1)きってのメイク男子。可愛さは誰にも負けません。いつでも完璧ビジュの「ろぬそん」です。よろしくお願いします」

 次に紫の人が言った。

「今日も俺のことかっこいーなーって思う人、挙手。うん、サンキュー。みんなはすごくかわいいよ。イケメン担当「かいつ」です。今日もよろしく」

 最後に緑の人が言った。

「どうもこんちわ。あだ名は潤滑油。緑の人で覚えてください「ルーク」です。よろしくー」

 明らかに緑の人の時だけ、盛り上がりに欠けていた。

 ファンにイジメられている。あ、でも、ぼくは気付いた。ルークさんのファンは驚くほど少なかったのだ。

 淘汰されていく。

 ぼくはしばらく、やー(1)のライブを眺めて、家に帰った。

 ぼくは一般人が自ら撮影したポルノ動画をアップロードしているウェブサイトを使ってオナニーする。たまに、動画と動画の間に広告がある。その広告には

「違法アップロードされた動画を見ながら自慰行為に勤しんでいるそこのあなた。我々違法アップロード警察はあなたのスマホをハッキングし、スマホの内臓カメラであなたの赤ら顔を撮影していますよ」という文言が黄色の背景に黒い文字で書かれていた。

 ポルノ動画は素晴らしい。ぼくはポルノ動画が好きだった。特に犯罪すれすれのやつが好きだった。ぎりぎり犯罪じゃないやつ。罪を犯してしまうと、途端に面白くなくなってしまう。ぎりぎりのやつで。

 ぎりぎりのやつが良いのだ。

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