第24話
「何を言っているんだ雪乃。約束だったはずだ。半年間君の好きなように行動させたら、離婚はしないって契約だっただろう」
「康介さん。あなたは契約を破ったわ」
「どういうことだ?」
「真奈美さんが、3ヶ月前に貴方とホテルで関係を持った証拠を私に渡してくれたの」
「3ヶ月前?」
「カラオケボックスで話し合った日よ。あの日あなたは真奈美さんとホテルへ行った」
真奈美さんが雪乃と前島に突撃してきた日だ。
二人で話し合うように雪乃たちはカラオケボックスを後にした。
康介はその後、真奈美さんとホテルに行って、彼女とまた体の関係を持った。
そして、私に聞かせたボイスレコーダーの録音は肝心なところが切り取られていた。
真奈美さんは涙目でごめんなさいと謝りながら康介に説明する。
「康介、私はあの時動画を撮っていたの、それを雪乃さんに渡したわ。そうするしかなかったの」
「なんだって!君は、最後だからって、これで終わりにするからって願ったんじゃないか。動画なんて……有り得ない」
「私に残された手段はそれしかなかったのよ」
康介はみるみるうちに顔色が悪くなり、頭を抱えた。
真奈美さんは康介に抱かれた証拠を動画で残していた。
完璧な裏切りの証拠だ。
「康介さん、真奈美さんと体の関係を持つなら、離婚届けを書いてからにしてくれってお願いしたわよね?真奈美さんと別れるために話し合うのは仕方がないとしても、彼女を抱くのは流石に違反でしょう」
「やめてくれ……あれは、たった一度だけの話だ。俺は、君が他の男に抱かれている半年の間、誰とも関係を持っていない」
「私と寝たでしょう」
「黙れ!嘘つき女」
醜い争い。
見ていられない。
「真奈美が嘘をつくのは、今に始まった事ではない。彼女はそもそも自分の良いように話を作る女だ」
大地さんが真奈美さんの本性をさも当たり前の事のように話す。
「うるさいわね、あなたはもう関係ないでしょう。帰りなさいよ」
「そうだね。子供達も手に入れたし、君の顔なんて見たくもないよ」
「さっさと帰りなさいよ!」
「真奈美、離婚後3年以内であれば、元配偶者に離婚の慰謝料を請求できるって法律で決まっているの知ってるか?君に300万請求させてもらうから」
大地さんは用意していた書類を真奈美さんに渡す。
「な、何言ってるのよ!今更そんなもの払わないわよ。子供を手に入れたんだから大人しくしていてよ」
「いや、河津康介さんからは慰謝料をもらっている。けれど、君からはまだだからね」
真奈美さんは目じりを険しく吊り上げて大地さんを睨んだ。
「慰謝料と言えば、真奈美さんに請求した300万、康介さんが支払っていたのよね?私が受け取ったお金はあなたのものなのね」
「それは。真奈美の離婚の原因を作ったのは俺だったし、何より、早く決着させたかった。いつまでも真奈美とかかわりを持ちたくなかったからだ」
「康介!何を言っているのよ。私はもう子持ちじゃないわ。一人身になったの。何の障害もないのよ。雪乃さんと離婚して、私と再婚しましょう!」
「何を馬鹿なことを言ってるんだ、そんなことするはずないだろう」
「できるんじゃない?だって私、あなたと離婚するもの」
「た、頼む……雪乃。君が半年間浮気をしていても、それでも俺は我慢して、今まで耐えたんだ。全て、君との結婚生活を継続するための努力だ。分かってくれ……」
修羅場とはまさにこういう場のことを言うのねと思いながら、諦めの悪い夫を冷ややかな目で見つめる。
もう、康介さんの事を何とも思わない。
一緒に過ごした3年はこんな情けない夫とともにここに捨てていく。
「無理」
雪乃は冷たく康介に言い放った。
「証人欄には、私と、雪乃さんの職場の方がサインしています。後は河津さん。ご主人のサインがあれば終わります」
大地さんが雪乃から離婚届けを受け取り、康介さんの前に差し出した。
彼は今、証人としてこの場に立ち会ってくれた第三者だ。
「そうよ、康介、サインして離婚してよ!私は旦那も子供も失ったの。もう康介しかいないわ」
真奈美さんが康介に縋りつく。
「康介さん。約束を守れなかったのはあなたです。潔くサインして下さい。もう、終わりにしましょう」
雪乃はそう言い冷たく笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。