Ⅳ
§6
アンジェリーナ邸を後にしたローズは、自ら引き起こした言動の不一致について思考を巡らせていた。それは、直前までアンジェリーナの提案を断ろうとしていたのにもかかわらず、最終的に提案をのむと答えたことだ。
(だめだ、やっぱりこの提案を受ける根拠が見当たらないし、どう考えても罠である可能性が高い。ならどうして……。そうか! やっぱり直感は、馬鹿にできないな)
ローズは今ここでアンジェリーナの提案について考えることができているのは、一度イエスと答えたからだと気付く。仮にノーと答えていればこのまま町を去るのみだった。しかし、イエスと答えたことで一週間の
最終的に下す決断がイエスであろうとノーであろうと、この選択はローズにとって大きな分岐点となる。そして、これほど重要な選択は、安易に下すべきではない。ローズの直感はそれに気付いていたのだ。
(昨日の条件下ならイエスと答えることはほぼノーリスクだ。例えば今、致命的な罠に気付いたとすれば理性の判断に従ってこの町を去る。一週間じっくり考えた上でリスクをリターンが上回ると判断できたなら、再び会いに行けばいい)
この事実に気付いたことにより、アンジェリーナの提案が罠である可能性が、昨日の想定よりもはるかに減少するとローズは考えた。仮に騙すつもりなら、一週間の猶予を与えることはあまりにも非合理的だからだ。 そして、ローズが一週間をかけて出した結論は、リスクもリターンも大きい。というものだった。
§7
「まずは、約束通り来てくれてありがとう。ローズならきっと来てくれると信じていたよ」
俺は、自分の欲深さを呪った。今までは興味こそあれど絶対に手に入らないものだと分かっていたので、何とも思わなかったのだろう。しかし、いざ自分の手の届くところに現れると━━━
それを
「そしてこれが、君の身分証だ。今日からローズは正式にアルドア国民となり、同時に私の養子ということにもなる。ここまでで何か質問はあるかい?」
「そうだな……。まずはこれが、本物かどうか確かめさせてもらうよ」
早速冒険者ギルドにてダンジョンの探索許可の申請を行おうとしたものの、俺はアンジェリーナのそばにいた執事によって強引に風呂場へ押し込まれ、その勢いで身なりを一新される。俺も立場上こんな扱いをされていいはずがないんだけどな。義理だが主人の息子だぞ? ……だからこそ身なりはしっかりしろという訳か。新しく渡された服の着心地が思いの外快適だったのでまぁ、良しとしよう。
それからアンジェリーナの案内のもとギルドに入った際、俺が年端もいかない子供ということもあってか、
そしてこの、トランプのような固いカードは紛れもなく本物の身分証というわけか。それに加え、ついさっき終えた手続きによって手に入れた冒険者の個人カード。こちらは身分証よりも分厚く、重い。おそらく金属を原料に作られた魔道具なのだろう。
ここで一旦、冒険者カードの内容をまとめよう。
・名前
カードの左上に大きくローズと記載されている。もうこれについて多くは語るまい。ハイハイ、私はローズだよ~、よろしくね~。
・ランク
名前の右側に記載されている記号。冒険者の実力を示すもので、実績を積んでいくとEからD、C、B…… と階級が上がっていく仕組みだ。当然俺のカードにはEと記載されていた。
・ジョブ
名前の真下に記載されており、冒険者としてその人物が担う役割を示している。前衛ならナイト、タンク。後衛ならマジシャン、ヒーラーあたりがメジャーなのだが、俺のジョブは『レンジャー』となっていた。
ギルドの職員いわくこのジョブは主に罠回避、レアアイテムの探索を担当する。戦闘時は前衛の補助、場合によっては後衛のカバーに回るという、素人の俺が聞いても分かるくらい難しい役割であった。
当然疑問に思った俺はアンジェリーナにこのジョブを選んだ真意を聞く。ある程度合理的な回答を期待したのだが、返ってきた答えは私がレンジャーだからローズもレンジャーをやるべきだ。という、理屈もへったくれもない感情論であった。ていうか、あんたはどう見てもマジシャン側の人間だろ! 何でレンジャーなんだよ。
§8
後日、ローズと共にダンジョンに訪れたイリーナは、彼が嬉々としてモンスターを狩っていく姿を目の当たりにした。イリーナは激しい後悔の念に駆られるとともに、確信する。あの日、あの時、あの場所で━━━
刺し違えてでも、自力で解決するべきだった。
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