第74話 エピローグ 4



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放課後、藍の周囲には動画サークル〈チャンピオンシップ・フレンドシップ〉の面々が集合していた。

「ねぇ、まずはうちの部室に機材や設備を見に来ない?」

兼崎がそう藍に話しかける。

「ああは言ったけどさ、やっぱ顔出しってイヤだなーって思うんだ」

「だから、まずは撮影機材で試し撮りから始めるんだよ」

兼崎の提案に回りの部員も「いいね!」とか「意義ナシ!」と乗せる。

「いや! 本人の意思を尊重すべきだよ!」

会話の輪に割って入ったのは江野であった。

その発声者が江野と判り、一同シュンとする。

「アレ、江野はもう出ないの?」

更に信夫がその輪の中に入ってくる。

「もういいや、寺田くんや兼崎くんを今度は僕が撮るよ」

と云う江野の言葉に煽るような雰囲気はなく、少し寂しそうに云った。

「そうだな、今まで江野にはさんざんムチャやってもらったから、今度は撮影を任せるよ。それより、未だこのサークルにいてくれるのかい?」

「うん。最後まで見届けたいんだよ」

二人はちゃんと視線を絡ませた。

「オレも見届けるかな。兼崎くんたちが又暴走しないようにね」

信夫が云う。

「透明性のため、新入部員は大歓迎だ」

兼崎が答える。

「それならば、鮎川も入れてくれてやってくれないか? なぁ、鮎川」

「え」

と洋二も輪の中に入ってきた。

「いいんじゃない。私はバイトで忙しくなるから、あまり出られないからね」

藍が云う。

「そうだな、親が映画会社の社員だから、映像には興味あったんだよ」

と洋二。

「オレんちは芸能プロダクションだから、近いな」

兼崎が乗せる。

当然そのことは洋二は知っている。

そして、兼崎の表情は別の事も語っていた。

―コイツ、オレが昨日の植物怪人だと疑っていやがる。

実際洋二にはフシギなことがあった。

特撮番組を洋二はこよなく愛するのだが、変身したヒーローの正体のバレ無さ、だ。

まずのそのヒーローがいる時に、変身者がいないのに、気づかれないのがおかしい。

いや、それよりも、人間は声の質や顔だけで人をいつものこの人だと認識しているワケではない。

ちょっとした仕草、立ち居振る舞い、細かい所作、その総体で自分が自分であると他者に存在を占めているのである。

仮面をつけ、コスチュームを替えただけで、本当にその人物だとバレないなんて、現実にはあり得るだろうか。

あの時に大森ら三人は冷静ではいられない状況にいた、寺田と江野は早めに力を誇示して術中に収めた。

兼崎だけはかなり冷静にコスチュームを着た洋二を観察していたハズだ。

しかも校内である。

校内でいつも会う同じクラスの人間がかぶりものと珍妙なコスチュームに身を包んでいれば、「おい! 鮎川! オマエなんてかっこうしてるんだ!?」と直ぐに指摘されてもなんら不自然はない。

これらが洋二の考察であったが、彼には気づいていない事実がある。

それはあの時に兼崎に云った「何故、麻井藍を仲間内からやり玉に上がった時に助けた?」である。

洋二が藍を好きなことはクラスの大半が知っていた。

藍が好きな男子と疑われる中の筆頭であった。

藍はかわいいが、早く登校して寝ている・食い意地が張っている・悪事を見逃さない等で、ヘンな女の子というキャラクター(ちなみにそういう藍のヘンさに洋二は一切気づいていない)なので、競争率は極めて低いので、皆は「早く付き合っちゃえばいいのに」と思っていた。

だから兼崎はあの台詞で真っ先に洋二を疑ったのだ。

だが兼崎としてみれば、もしそうであっても、ドローンや金融機関のコンピューターを瞬時に支配できるあの支配力の前では疑っていること自体バレたらマズいと思っているので、口にする気はなく、むしろ友達になって、知らぬフリを通し利用することくらいしか考えてない。

「だから、鮎川も是非入部してくれよ! 閲覧者数を十万超えれば、受験の時の面接で武勇伝にもなるゼ!」

「そうだよ、鮎川、おまえさ、麻井さんのこと好きなんだろう」

云ったのは信夫だった。

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