第71話 エピローグ 1
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洋二と藍の長い夜が明けた水曜日の朝。
クラス、いや、学園のいたるところで兼崎たちが挙げた最新動画の話題で持ち切りだった。
しかしそれは揶揄嘲笑の類でなく、「どういう心変わりであんなものをアップしたのか」とか「路線変更した意味が判らぬ」といったものたちであった。
だからか、出演していた生徒が登校してくると、その話題をするのを皆が避けた。
兼崎たちの居心地の悪さは皆も痛い程によく判ったからだ。
江野だけはイジメから逃れたことを嬉しがるでも、誇るでもなく、淡々と登校してきた。
藍は今朝から伯母の類のマンションから登校している。
洋二が流させたお仕置き動画は観ていなかったが、学園の雰囲気で洋二がちゃんと勤めを果たしたことが知れた。
伯母の自動車でマンションに着いたのは零時を過ぎていたので、さすがに今朝は皆と同じ時間帯に登校していた。
だから藍は眠くてしょうがない。
それより兼崎たちの動画のように大っぴらには話されていないが、小林先生が女子生徒を何年もの間、教師としてはあるまじき関係を作っていたことも話題になっていた。
それが大っぴらにならなかったのは兼崎たちの動画が滑稽なのに対し、小林先生のものは笑える要素が皆無な程に陰湿なものだったからだ。
しかも小林先生が名前を挙げた生徒の数人が一時間目が始まっても着席していない。
これは教師側がカウンセラーも同席させて、事実上の事情聴取を行ったのだ。
藍も午後には呼び出されることになる。
この時点で小林先生は都の某施設に軟禁状態であり、数日後には刑事事件として取り扱われることに変更したため、当局に移送される。
明らかに元気に登校している江野の晴れがましさと違い、皆子どもであってもさすがに被害者を慮って小林先生ネタはあまり話されなかったのである。
洋二が登校してくる。
藍が「おはよう」と声をかけると、洋二も「やぁ、おはよう」と返す。
藍の表情を見て洋二は、兼崎たちにはこの時点で、動画は消してヨシ!と洋二は例の脳内から指示を出した。
小林先生の件で、教師陣は多忙らしく一時間目は自習となった。
ちなみにこれのおかげであろう、夜に校舎で撮られた滑稽動画は職員室で議題にすら上らなかった。
「小林先生は学校に来られない事情があるので、来ません」
としか代用教員は云わなかったが、後日、保護者会と全校朝礼で彼の悪行は公表される。
自習となると、席を立って友達たちに話しかける生徒もいたのだが、その中に兼崎がいたのは意外なことで、しかもその相手が藍だというのも更に意外だった。
「麻井」
「うん」
「江野のこと、すまなかった。許してくれとは言わないが、何度も注意されても止めなかった件は謝罪するよ」
「判った。江野くんがメールくれて、大丈夫になった、と言ってきてくれたから、もう私も何も言わない」
「小林先生、来ないな」
兼崎は不自然な程に話題を変えた。
彼はあの奇妙な植物のコスプレをしたものに小林先生の名を告げてから、今朝の小林先生の悪行が暴露され、今朝来られなくなったという点には気づいていた。
「来ないね」
藍は先生と父親に同じ種類の男性性を感じていたことに、今朝ようやく気付いた。
兼崎としてみれば、校舎の内部情報を提供や一定の目こぼしの代わりに、藍がいくら自分たちに歯向かおうイジメの対象にはしないでくれという交換条件を飲んだので、その目的が今朝の情報通りだとしたら、自分はいくらなんでも有罪だと判断したのだ。
「本当に悪かった」
「もう、いいよ」
兼崎は小林先生の目的を知らなかったが、その通りだとしたら、自分はいいように利用されていたと知ったことが洋二に組織を半壊されてことよりショックだったのだ。
「ねぇ、兼崎くん」
「なに?」
「ユーチューバーって儲かるのかなぁ?」
「麻井さん、出てくれる?」
「儲かるなら」
「大森! 寺田! 麻井さんが出演してくれるってよ!」
兼崎は同じ教室にいる〈チャンピオンシップ・フレンドシップ〉の仲間に声をかけた。
「マジ! これで続けられる!」
「本当ですかい! オヤビン!」
クラスの皆が、三人に注目する。
そして兼崎は「みんな! これからはもう江野くんには裏方に回ってもらって、楽しいチャンネルを作るよ! そして学園の不正を暴く正義も併せ持つ!」と宣言した。
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