第30話
一旦車に戻った村瀬と井上は、そのまま栗原が戻ってくるのを待った。
だが15分経っても、20分経っても、誰一人として現れない。
地球上に、村瀬と井上しか存在していなかのように、あたりは静まりかえっていた。
「待ってる時間ももったいないし、車で絵理香ちゃんを探さないか?」
不安な空気を断ち切るように、井上が車のエンジンをかけた。
「だったら、頼みたいことがあるんだ」
村瀬はハンドルを握る井上の腕をがっちりと掴んだ。
「俺は、絵理香の無事を信じている。でも万が一ってこともあると思うんだ。自分ひとりじゃ、怖くて確認にいけない。でも行かなきゃいけないと思うんだ」
「どこへ?」
井上が聞き返す。
「わからない……」
「わからないってなんだよ。今お前が確認に行くって言ったんじゃないか」
「あぁ、そうだ。俺は……」
村瀬は井上から手を離すと、井上から顔を背けるようにして窓の外を眺めた。
「絵理香の死体が眠っている場所へ行きたいんだ」
「村瀬! 自分の言ってることわかってるのか? 兄貴のお前がそんなことじゃ……」
「わかってるよ! わかってるんだ。けど、絵理香がもしも死んでしまっているんだとしたら、それはそれで早く見つけ出してやりたい」
村瀬の言葉に井上は絶句した。
「山の中、海の中、川の中、森の中、土の中……。どこだっていい。どんな姿だっていい。絵理香を連れ戻したい」
村瀬は拳をぎゅっと握りしめた。
「お前の気持ちはわかるよ。だけどそれは到底無理な話だ。その万が一があったとしよう。いったいどこを捜すっていうんだ?」
村瀬は言い返すことができなかった。
「俺は絵理香ちゃんは生きていると思う。だから俺は山や海に車を走らせはしない。絵理香ちゃんの行きそうな場所を徹底して捜す」
井上はそう言うと、アクセルをめいっぱいふかして、栗原のアパートを後にした。
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