第8話
後悔していた。
土屋が死んでしまうなど、ほんの数時間前までは想像もできなかったことだ。
様子のおかしかった土屋のことを、もっと気にかけてやっていればよかった。
あの携帯電話が壊れる前に、絵理香の姿を確認しておけばよかった。
さまざまな感情が混ざりあい、気がつけば体を震わせながら泣いていた。
男のくせにかっこ悪いとか、みんなが見てるからとか、そんなことはどうでもよかった。
ただ悲しくて、切なくて、悔しくて、やるせなかった。
動かなくなった土屋の足と、携帯電話をじっと見つめる。
「ん……?」
村瀬は耳をそばだてた。
携帯電話の着信メロディーが、かすかに聞こえてきた。
「まさか、な……」
聞き覚えのある着信音。
村瀬は土屋の携帯電話を凝視した。
着信ランプが点滅していた。
――壊れてなかった!?
村瀬は上を見上げた。
土屋の体がクッションにでもなったのだろうか。
携帯電話のそばに、細い足が近づく。
女だ。
その女が屈み、土屋の携帯電話に手を伸ばした。
ピンク色のスカート。
ここの社員であることに間違いはなかったが、誰なのかを確認することはできない。
村瀬の位置からは、足元しか見えなかった。
その女子社員が、土屋の携帯電話を持ち上げた。
「おい! その電話をどうする気だ」
村瀬の叫び声は、現場の騒然とした空気にむなしく飲み込まれていった。
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