第7話

いや、そっくりというより、絵理香本人だった。


髪の長さ、通った鼻筋……。


兄の村瀬にははっきりとわかった。


そこに映っているのが、妹の絵理香であるということを。


土屋に事情を話して、携帯電話を見せてもらおうとしたその時、土屋の直々の上司がやってきて、彼を連れ出してしまった。


――また後で土屋に聞こう。


いくら妹が心配であるとはいえ、仕事をおろそかにするわけにもいかない。


土屋を引きとめることもできずに、村瀬も自分の職務に戻った。


それが間違いだった。


上司と事務所から出て行った土屋は、2度と戻ってくることはなかった。


その日の終業時間10分前――。


午後5時50分。


15階建てのビルはにわかにざわつき始めた。


遠方から鳴り響くサイレンが徐々に近づき、村瀬の勤めるビルの下でピタリと止んだ。


「土屋が飛び降りた!」


野太い男の声が裏返った。


飛び降りたという言葉に動揺し、それを告げたのが誰だったのかはわからなかった。


村瀬は無我夢中で事務所を飛び出した。


エレベーターがもどかしく各階の数字を点灯させる。


村瀬はしばらくその場でランプの行方を追っていたが、しびれを切らし非常階段へと向かった。


8階から一気に駆け降りる。


ビルから飛び出すと円陣を組むようにして、人垣ができていた。


その隙間から、土屋のものと思われる足が見えていた。


だらしなく地面に投げ出された足は、くの字に折れ曲がっていた。


「っ……」


村瀬の位置からは、土屋の足しか見ることはできなかった。


関節に逆らうように曲がっている足のそばに、携帯電話が転がっていた。

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