第5話
歩道橋の上は、みるみる人だかりができ始めた。
村瀬は人波を縫って、その女に走り寄った。
「里美?」
その場にしゃがみ込んでいた女が、携帯電話を握る女に向って声をかけた。
里美と呼ばれた女は、携帯電話を指差した。
震える手で指し示したのはディスプレイ。
間違いない。
あれが今まさに息絶えた澤田の携帯電話に違いない。
そして――。
里美と呼ばれたあの女は、何かを知っている……。
もしかしたら、妹の絵理香の行方を知っているのかもしれない。
「きゃっ」
小さな悲鳴と共に、里美と呼ばれた女は前につんのめる。
集まりだした野次馬に、背後からぶつかられたようだ。
その拍子に携帯電話は手から離れ、雑踏の中に紛れ込んだ。
「ックソ!」
村瀬は、慌てて落ちた携帯電話を探す。
屈み混んで、手のひらで辺りをまさぐる。
いつの間にか身動きができないほどになっていた歩道橋。
パンプスのかかとで指先を踏みつけられ、村瀬は小さく唸った。
この状況で携帯電話を探すのは絶望的だった。
携帯を見つけることを諦めた村瀬は、里美という女に話を聞こうと視線を泳がせた。
まるで通勤ラッシュの電車のようだった。
人で埋め尽くされた現場で、その姿を見つけることはできなかった。
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