第32話

「それ本当なの? じゃあ私を見ても、何も思い出せないってこと?」


由香がうなだれるように頭を下げた。


リクは唇の端にうっすらと笑みを浮かべながら、顔の前で手を合わせた。  


すまん、すまんというような軽い態度。


里美には、リクの言動全てが嘘っぽく感じられた。


リクは絶対知っている。


そんな気がしてならなかった。


「何も覚えていないって言うなら、教えてあげる。

あなたの元カノ真由美は自殺をしたの。おそらくあなたが原因でね」


里美は挑発するように語勢を強めた。


「それはお気の毒でしたね。でも僕には関係のないことだから、そんなこと言われても困るなー。

だいたいどうして僕なんかをダウンロードしたの? 僕は憎むべき相手なんじゃないの?」


顎を前へ突き出ししゃあしゃあと言いのけるリクに、里美は耐え難い怒りを覚えた。


「真実が知りたい?」というメッセージが残っていれば、ダウンロードするのは当然の行為ではないのか?


友達が謎の死を遂げているのに、素通りなんてできるはずがない。


里美は携帯電話を力まかせに閉じた。

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