第28話

由香が握り締めていた携帯から陽気なメロディーが流れ、沈黙は破られた。


真由美の携帯!?


一瞬どきりとしたが、音を発したのは由香の携帯電話だった。


「何? 今、里美と一緒だから」


由香は携帯を耳には当てずに、画面に向かって語りかけている。


――携帯彼氏からか……。


リアルタイムに画面を通して会話ができるなんて、どういうシステムなのだろう。


やっぱり気持ちが悪いと里美は思った。


画面に向かって話をする由香も異様に映った。


「ごめん。そんなつもりじゃなかったの。本当、信じて」


慌てた由香の声に混じり、携帯電話からは男の怒声もかすかだが聞こえてきた。


しばし無言の後、由香は静かに携帯電話をカバンへとしまった。


「どうかした?」


携帯彼氏との痴話ゲンカに興味などなかったが、由香の落ち込む様子が心配で声をかけた。


「二股かけるつもりかって、怒鳴られた。

せっかくラブゲージが上がってきてたのに、また50に戻っちゃった……」


「二股って? まさか真由美の携帯彼氏を赤外線で取り込もうとしたから?」


「たぶん」


ってことは……。


「里美の携帯でやるしかないよね」


由香の言葉に、里美は嫌な感じを覚えた。背骨を蟻が這うようなむず痒さ。


こんな時は、必ず良くないことが起きる。


里美は自らの携帯電話を強く握り締めた。


真由美を死に追いやったかもしれない携帯彼氏リク。


それだけでも十分気味が悪かったが、何よりもこの携帯彼氏自体、里美は苦手だった。

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