第21話:弟子入りの条件

「帰れ痴れ者が、ここは穢らわしき探求者の踏み入って良い場ではない」


ダメだった。


親の仇かってほどの凄まじい怒気を孕んだ瞳でぶっきらぼうに言い放った人物こそが、煌めく金髪を一つにまとめた美人、“黄金の戦姫”セレナ=リリィ・ロンギヌスその人だ。

僕の危惧した通りになってもはや面白いまである。

事実、セレナ様の隣にいるマナさんは大爆笑している、本当にこの人は。


「まさかシェイル君の想像した通りになるとはね!少しは話を聞いてやってもいいじゃないかセレナ!」


「貴女の頼みだから会っているのですよマナ」


セレナ様の肩に腕をかけて親しげに話すマナさんはセレナ様を誘惑する悪魔のように見えた。

というか貴族相手にそこまで不遜な態度を取れるなんて、恐れ知らずとも取れるし余程親しい間柄とも取れる。

マナさんも探求者だというのに、ここまで温度感が変わってくるものだろうか。


「いいですかマナ、貴女が弟子にしたら勝負に乗ると言ったから会っているのですよ」


「そこに何の問題が?」


「そもそも、“戦姫流”の弟子をとるつもりはありません、それと弟子にするにしろ弱すぎます、話になりません、私も舐められたものですね」


そりゃあ、上から数えて真っ先に名前が出てくるようなお方に比べたら僕など有象無象と変わらないだろう。


「まあまあそう言わずに、チャンスぐらい与えてやるのも面白いだろう?」


「それ、私にメリットありますか?」


「しばらくアフタヌーンティーの会計は私が払おうじゃないか」


セレナ様がぴくりとした。

というかこの2人、アフタヌーンティーに一緒に行くほど仲がいいのか。

ギルドホームを破壊し尽くしたという話を聞いた後では意外だ。


「うっ………い、1番高いケーキ頼んじゃいますからね!?」


「問題ないさ、最悪経費でダビデ殿に払わせればいいさ」


この人今えげつない事を言ったぞ。

まさか目の前で上司が横領を企てるところを目撃してしまうだなんて思いもしなかった。


「それはそれでヘブライ卿に申し訳ないのですが………まあ聞かなかったことにしましょう、交渉成立です」


こほん、と咳払いをしてセレナ様が再びこちらを向いた。

マナさんの時とは違い、汚物を見るような冷え切った瞳だ、切り替えが早すぎる。


「おい痴れ者、私の宿敵の顔に免じて貴様にチャンスをくれてやる」


「ありがとうございます」


「そうだそうだ私に感謝しろー!」


なんか外野の美人がうるさいけど今はそれどころではない。

相手がようやく交渉のテーブルに着いてくれたのだ、これを何が何でもものにしなければならない。


「1本だ」


セレナ様は右手の人差し指を立てて試験の内容を提示してきた。


「私から1本取ってみろ」


「1本、ですか」


「いつでもいい、法に触れず貴様単独ならばどんな手を使ってもいい、私から攻撃はしないしただ貴様の攻撃を捌くだけだ」


これがただの騎士に弟子入りする条件だとすれば、舐められていると感じるだろう。

しかし相手は“黄金の戦姫”だ、一本取ることすら難関だろう。

しかしこちらにも意地がある、マナさんやダビデ様の期待を裏切りたくないのもそうだ。


「仮にも僕はデモンズユナイテッドの一員ですよ?一本如きでいいんですか?」


「安心しろ、貴様にはその一本すら取れない」


揺さぶりをかけようとしても歴戦の覇者には通用することはない。

正面から正々堂々と自分の実力でいくしかないようだ。


………落ち着こう。


何もこの人と勝負して勝たなければならないわけではない、1撃を入れることさえできれば良いのだ。

今は全力を出し切って1撃を掠めさえすればいいのだ。


「僕、後がないんで、意地でも1本取りに行きますよ」


「せいぜい足掻いてみせろ探求者風情が」


セレナ様は鼻で笑った。

その嘲笑には無関心が多分に含まれていた。


さあ挑戦者として、全身全霊を尽くそうじゃないか。





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