第20話:弟子入りしよう。
デモンズユナイテッドの朝は早い。
日が昇る頃には活動を開始するものがほとんどで、中には夜中のうちに起きる者もいる。
無論、僕もその例に漏れるはずもなく、早朝から1人で鍛錬をするつもりだった。
だったのだが。
「マナさん、僕どこに連れてかれてるんですか」
「それは着いてからのお楽しみさ」
朝早くにシルハさんに「マナ姉がお呼びだぜ新人ッ!!羨ましいぜクソが!!」と謎にブチギレられて起こされた。
慣れないベッドで寝れなかったのもあって寝不足だったのもあるし、駄犬に突然腹パンで起こされたのもあってうんざりだった。
しかし今はキレるわけにもいかないのだ、駄犬に投げ捨てられた馬車にいたのはマナさんだけではない。
「ではダビデ様、これどこに向かってるんですか?」
「聞けば平民の君は泡を吹いて倒れるだろうな」
ダビデ様も何故か一緒に乗っている、ギルドマスター本人の前で見苦しい真似をするわけにはいかなかった。
というか、泡を吹いて倒れる場所ってなんだ、外は暗幕で見えないし、気分はさながら護送される囚人だ。
「というか、ダビデ様が出向くって結構大事だと思うんですけど」
「相手が相手だからな、仕方あるまい」
なんかだいぶ絞れた気がする。
貴族であるダビデ様が出向くと言うことは、貴族のところに行くぐらいだろう、他にあるとすれば………
「………王宮?」
「大正解だ!よくわかったじゃないか!」
「嘘でしょ」
なんで当たるんだろうか。
マナさんがこれは傑作と言わんばかりに僕を指さしてケラケラ笑っている。
縋るようにダビデ様の顔を見るも、目を逸らされてしまった、本当のようだ。
「なんで王宮なんですか?嫌ですよ僕、もう心臓破裂しそうなんですけど」
まさか王族と顔を合わせるだなんて、それこそ緊張で死ぬ気がする。
「ああ、王族と会うのはダビデ殿だけさ、私達は王宮に入る為にダビデ殿を利用するだけだ」
「利用って、本人の前で言うことじゃないでしょ」
「全くだ」
本当にこの人は遠慮がない、絶世の美女でなければ激怒されていてもおかしくないだろう。
「というか、じゃあなんで僕は王宮に連行されるんですか」
ダビデ様は本当に王族の方に用があるのだろう、では王宮に行くダビデ様に便乗して王宮に入ることになんの意味があるんだろうか。
「キミ、二刀流にまだ慣れていないだろう?」
「そうですけど、なんですか突然」
なんの脈絡もなく聞かれて少しびっくりしてしまった。
言われた通り、僕はまだ二刀流に慣れていない。
例の一件で僕の影から出てきた二振りの剣、漆黒のフォルネウスと純白の名も知らない剣、その二振りを同時に扱おうとするも、どうにも上手くいかない。
誰かに教えてもらおうにも二刀流で戦う知り合いが僕にはいないのだ。
行き当たりばったりとはこのことだろう。
「王宮騎士団に知り合いがいてね、王国でも5本の指に入る実力者だ」
「そのすごい人がどうかしたんですか?」
聞くだけでは、そんなすごい人がいるんだすごいな、程度にしか思わない。
というかマナさんのことだから自慢だけで終わる可能性も普通にある、私はその人と知り合いなんだぞってドヤ顔で言いそうだし。
日頃の行いが悪いからだと思う。
「何故だか失礼な考えを感じたがまあいい、その人が自己流で二刀流を極めていてね、彼女に師事すれば二刀流を習得できるだろうね」
「なるほど、いくつか質問をしても?」
「もちろんさ」
ここで僕はひとつ気づいたわけだ。
そもそも二刀流を扱う人は極めて少ない、それでいて曲芸に終わらず実力を示した人物は数えるほどしかいない。
それにだ、今マナさんは“彼女”と呼んだ。
二刀流を極めた女騎士、それでいて王国指折りの実力者、そんなあまりにも有名な人物を知らない国民はもはや国民ではないだろう。
「その人って金髪ですか?」
「金髪だね」
「貴族ですか?」
「貴族だね」
「騎士団長の娘ですか?」
「
「その人って“黄金の戦姫”って呼ばれてたりしますか?」
「“黄金の戦姫”だなんて、“白銀の戦乙女”に憧れたのかもしれないね」
「その人ってセレナ=リリィ・ロンギヌスですか?」
「よくわかったじゃないか」
「とんだ大物じゃねえかなんで知り合いなんだよこの上司は」
当たってしまった。
“黄金の戦姫”セレナ=リリィ・ロンギヌス、国王が有する騎士団である王宮騎士団の次期団長筆頭候補にして、現団長アウグスト=アレク・ロンギヌスの一人娘。
数年前に王都近郊で発生した魔物の大群を二振りの剣を手にたった一人で蹴散らし、被害を0にした規格外の英雄。
王国史に今まで二刀流で活躍した騎士は存在しなかったが、彼女が王国史上初の二刀流騎士として名を馳せた。
「てかなんでマナさんは知り合いなんですか?」
「何度か手合わせをしたことがあってね、良きライバルというやつだよ」
「2度とギルドの敷地を荒らさないで欲しいものだ、マナもセレナ嬢もだ」
ダビデ様が眉間に手を当てて呟く、きっと今まですごい被害を被ったのだろう。
というか、王国随一の騎士と対等に戦えるだなんて、本当にこの美女は底が見えない。
「まあ過去のことは水に流すとして、セレナに修行をつけて貰えば、キミはギルドでも屈指の剣術を扱えるだろうね」
「セレナ嬢なら間違い無いだろう、師事できればの話だがな」
「え?教えてもらえるんじゃないんですか?」
認識に齟齬があるようだ。
マナさんが嬉しそうに笑い、ダビデ様が僕に憐れみの眼差しを向ける。
強烈に嫌な予感がする。
「何を言っているんだい?私がするのはセレナと会わせるところまでさ」
「つまりは?」
「弟子入りを認めてもらえるかはキミ次第さ」
なんで最後までやってくれないんだなんて、口が滑っても言えるはずがない。
そもそも交渉のテーブルにつくことすら出来ないはずの僕を椅子に座らせてくれたのだ。
そこまでしてもらったのにこれ以上を望むなど、滑稽極まりない。
マナさんの僕を見る眼差し、あたかも僕を挑発するような眼差しだ。
デモンズユナイテッドの団員ならばこれぐらい当然だろう?目がそう言っている。
「最善は尽くしますけど、期待しないでくださいよ?」
「.........シェイル、これから戦に望む其方に一つアドバイスをやろう」
ダビデ様が不憫そうな眼差しでこちらを見ている。
そしてマナさんはまたおもちゃを扱うような悪い顔でこちらを見ている。
今日は何度嫌な予感が当たるのだろうか。
「セレナ嬢、引いては王宮騎士団の連中は、一部を除いて探求者嫌いで有名だ」
「それって僕本当に弟子入りできるんですかね、対面した瞬間断られそうですけど」
「いくらセレナ嬢でもそんな事はしないだろう、全ては其方次第だ」
思わずため息が出てしまいそうだ。
僕だって今まで努力を怠ってきたわけではないが、貴族、それも王宮騎士団次期団長筆頭である実力者に認めてもらえるかと思うと、それはまた別の話になってくる。
ましてやまだ剣を扱うどころか飲み込まれている僕を簡単に認めてもらえるとは思えない。
だが、これはマナさんからの期待でもあるのだと思う。
だからこそ、僕は何がなんでも“黄金の戦姫”に弟子入りしなければならない。
できることを全力を尽くしてやるだけだ、まずは結果を示す、認めてもらえるかなど二の次だ。
「まあ、あの実直バカのことだからね、おそらく何とかなるさ」
「わあこの人貴族にバカって言っちゃったよ不敬だ」
「日頃の私への態度を見れば今更だろう」
「ダビデ殿はともかく、シェイル君は帰ったら覚悟しておくといい、少なくとも番犬の手によってキミの部屋は無くなっていることだろう」
「シルハさんになんてことさせるんですか」
どうか神様、悪魔を宿した僕が願うのはお門違いかもしれないが、どうか“黄金の戦姫”がこの中身が最悪な“白銀の戦乙女”とは違ってちゃんとした人物でありますように。
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