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世界に異変が訪れたのは、10年前頃かららしい。
特に大都市────日本での東京では、異界の門が現れ、ブラックボックスが発見され、未知のバイオハザードが発生し、…他にも様々な異変が起きた。
23区は解体、主にバイオハザードの深刻度合いで新14区へと仕切り直された。また都内各地で悪魔や魔法少女や魔物や吸血鬼────今まで存在しなかった生物や知性体までもが現れるようになった。暗黒時代の幕開けだ。
それから10年の激動を経て、ようやく安定した時代を迎えようとしている。
一度は解体されたものの東京は以前首都であり続け、人々は非日常だった存在を日常として認識するようになり、都は再びの平穏を宣言した。
実際のところ、未だに立入禁止区は存在し、また都内の死亡率は10年前の3倍である。しかしそれは時代が変わったから────そんな一言で片付けられるようになった。
東京は、魔境だ。
日常的に、魔法少女が魔族と戦っている。
日常的に、悪魔が契約を持ちかけてくる。
日常的に、人々が自身の人生を否定している。
日常的に、誰かが死んでいる。
俺は、そんな東京から逃げ出した。
自信が間違っていないと証明する為に。
転校して1週間。今日もセミが鳴いている。
新たな高校生活だが、俺はちょっとした人気者になっていた。
きっかけは、ひとつは東京から来たことだ。
田舎に住むこの学校の生徒達には、どこか東京への憧れがある。
魔法少女に始まる東京の話をする俺は、同様に憧れのような目を向けられていた。休み時間の度に俺の席に人が集まっては、何かと求められて喋った。
彼らにとっての俺は、別世界や物語の中からきた異邦人と同じなのだろう。興味が人気を下支えした。
東京のことについて話すのは正直気乗りはしなかったが、これから平穏な学校生活を送りたい俺はあまり周囲に逆らおうとは思わなかった。
幸い東京での生活は嫌なことばかりではなかったから、楽しかったことを話そうと思えばそれなりに会話になった。
ただ、皮肉だと、そう思った。
もうひとつのきっかけは、
陽はクラスに限らず、先輩後輩から職員に至るまで顔がとても広かった。
校内を案内するというのでついていけば、あちこちで知り合いに会っては話しかけるか話しかけられ、ついでに俺を紹介する。見知らぬ相手でも困っていれば手を貸し、その場にいる俺も手伝わされる。
最早寄り道が多すぎて案内が進まず、結果1日で終わるはずが数日かかった。
こうして俺の学校での知名度は俺の意図と関係なくじわじわと上がり、果てにはイケメンな転校生がいるとか言って他のクラスから覗き見にくる女子まで現れた。まあ教室で俺を見るなり帰っていったが。噂に尾ひれが付き過ぎだって。
ともかく、学年問わず顔が知れ、東京から来たという転校生はそれなりに人気が出た。廊下を歩けば見覚えのある相手に声をかけられ、教室では陽をはじめよく話す面子がそれなりにいた。
俺の想像した田舎学生ライフとは違うが、虐められるよりはマシだろう。今のところ文句はなかった。
そんな陽だが────あれ以降、魔法少女について無理には聞いてこなくなった。他のクラスメートの質問への回答には聞き耳を立てているようだが、自分から積極的に話題に挙げることはしなかった。
「一条くん。放課後、時間ある?」
ただ、デートには誘ってきた。陽にも用事や付き合いがあるようで毎日ではないが、校内校外問わず案内をしてくれている。お陰でなんとなく慣れ始めたところだ。
そもそもそれらが本当にデートなのかどうかだが、案内という口実こそあれ初日に陽は『仮にもデート』と言っていた。陽がデートだと思っているのなら、デートなのだろう。多分。
しかし陽の真意は知れない。
知りたがっているはずの魔法少女については触れることなく、案内役として、あるいは1人のクラスメートとして俺と会話をする。
あの日の言葉をそのまま受け取るなら陽が話した理由は「言い訳」であり、つまりは魔法少女について知りたいから案内しているということになる。
しかし、肝心の魔法少女について聞いてこなくなったのだ。理由は別にあるのではないか。あるいは陽の言う優しさの一環なのだろうか。
仮に俺を籠絡させて喋らせることが目的なら…今のところは上手くいっていないな。
俺としては案内をしてくれるのが素直に助かるので、デートであるのを差し引いても行く価値はあった。陽が可愛いからというのを理由に加えると一気に不純に見えるが。
「え、またデート?
陽と仲の良い女子のひとり、
「えぇー、そんなんじゃないよ。ただの案内だって」
「そうそう。どうせなら藤川も一緒に来てくれたっていいよ」
「まじ?それじゃ喜んで〜、なんてなるか!何が悲しゅーて良い雰囲気の男女の間に割って入らにゃならんのだ」
「だからそもそも良い雰囲気とかじゃないってばー」
「────で、実のとこ、一条はどうなの?」
藤川の矛先が俺に向いた。
「どうとか言われましても」
「陽、可愛いしょ。好きなん?」
「まあ…可愛い」
「ちょ、ちょっと一条くん!?」
フゥー!聞いていた周りのやつらが盛り上がる。おいお前ら。
「でも好きかって言われるとノーかな…。そもそも出会って間もないし、俺は陽のこと、何も知らないから」
「「へぇ〜」」
外野のお前ら、ニヤニヤすんなや。
「杏ちゃんも満更でもない感じ?もう付き合っちゃいなよユー達」
「だからそんなんじゃないってばー!」
陽は暑そうに制服の胸あたりを掴んでパタパタする。
駄目だ、話がループしている。
「話戻すけど、結局藤川は一緒に来ないの?」
「私ゃ放課後は忙しいから遠慮しとくよ」
「藤川って何部だっけ」
「あ、いや部活じゃないんだ」
「ほーん。────彼氏?」
「や、そういうん違うて」
藤川は誤魔化しているが、何か後ろめたさを感じる。お前リア充なんかい。人のこと言えねえよ。
「え、りんりん彼氏いたの!?」
今度は陽が藤川を問い詰める番になった。話題が俺から逸れたので、それからは聞き役に回った。
しばらくは人の会話を流し聞きしていたが、
「転校生、いる?」
凛と澄んだ声が響いた。
教室の入口に、見覚えのない女子生徒が立っていた。
見たら忘れるまい。金髪のツインテールだ。
彼女はどこか冷めた目で教室を見渡す。今、目が合った。心なしか苛立っているように見える。
「転校生」
俺は陽達に一言残すと、輪から抜けて見慣れぬ女子生徒のもとに行く。
「俺に用事?初めましてだと思うけど」
近付くと、左耳にピアスが見えた。顔こそ可愛いけど、ここじゃ流石に浮いてそうだ。
実際クラスメート達も何やらこちらに視線を向けてはこそこそと話しているようで、何か曰く付きの生徒なのかもしれない。
しかし彼女はそんな事を気にする素振りもなく、
「昼休み。東校舎の非常階段で待ってる」
それだけ言い残すと、返事も待たず去っていった。
「一条くん、大丈夫?」
真っ先に寄ってきたのは陽だった。
「大丈夫も何も、話しかけられただけだし。名前すら教えてくれずに帰ってったけど」
「あの子、水原さんて言うんだけど…」
陽が言葉を濁す。
「不良生徒とか?」
「そこまでは言わないけど。ちょっと怖いっていうか。良い噂も聞かないし…。行かない方が良いんじゃないかな」
東京じゃ天然人口問わず金髪や派手な色の髪なんて珍しくもなかったが、ここは田舎だ。引っ越してきてから金髪を見たのは初めてだった。
狭い田舎町で、他人と変わったことを平気でしている。
それは、平穏の為に周りに馴染もうとする俺とはどこか対極な気がした。
「陽は水原とは同じクラスだったんだ。去年」
授業前、席に戻った俺に横山が言った。
「接点あったんだ」
「ああ。正確には去年の9月だったかな。水原が転校してきた」
「え」
一瞬、思考が停止した。もしや、
「────東京から?」
「よくわかったな。まあだから、水原からの用事はそっち系なんじゃないの。詳しくはわからんが」
話が見えてきた。
「陽は水原さんにはグイグイいかなかったの?俺に対するみたいに」
「陽は最初は押してたけど、水原は鬱陶しがってた気がする。でも水原あのナリだし、なんというか…尖ってる。気付いたら教室で孤立してた。そもそも話しかける人間が少なかったな」
「なるほど…。わざわざありがと」
「どういたしまして」
思いがけず陽についてまで知ることができた。
推測するに、陽は東京からきた水原に魔法少女についてしつこく聞きにいった。(俺の偏見だと)魔法少女について聞くためになんでもしそうな陽が水原を良く思ってはいないようだったから、水原が陽に余程な何かしらをしたのだろう、多分。
何したんだよ水原。ダメな魔法少女の現実でも教えたのだろうか。
魔法少女は────憧れるようなものではない。少なくとも俺は、そう思っている。
閑話休題。
学校生活も1週間すると、ルーチンワークが生まれ始める。
例えば、昼休みは大体自分の席で食べる、とか。
なんだかんだ男子の中では一番横山と会話をする。隣の席のヤツと仲良くなるのは自然だろう。
そんな横山と俺の他に、更に2、3人の男子が集まって昼食を食べる。俺は購買に買いに行くが、他の面々は弁当だったりコンビニ飯だったりする。俺が購買から帰ってくると既に食べ始めているのがいつもの流れだ。
しかし今日はそういう訳にもいかない。俺は横山に遅くなるかもと伝えて、東校舎に向かった。購買に行くかは少しだけ迷って、人を待たせるのも悪いからと後回しにした。
東校舎は、実習用の教室が多い校舎だ。ホームルームは存在せず、理科4科目の実験室や音楽室、美術室などがある…という数日前の陽の案内を思い出す。ついでに空き教室もそれなりにあるようだ。
しかし流石に非常階段までは案内されていなかったので、自分で探さなければならなかった。
「大抵階段は隅の方…」
廊下の突き当たり、扉の鍵を開けると非常階段に出た。金属製の非常階段だった。
校舎の外だったが、思ったより涼しい。日陰になっているからだろうか。吹き抜ける風が、心地良かった。
「遅い」
カンカンと音がして、上の階から水原が現れた。
「ごめん。転校したてで慣れてないから」
「…それなら仕方ないけど」
仕方ないのか。水原が、ん、と顎で指すので、階段を水原のいる踊り場まで上がる。
俺が身構える一方で、水原は無表情のまま踊り場に腰を下ろす。持っていたビニールから紙パックのミルクティーを取り出すと、ストローでちゅうちゅう飲み始めた。
……?
「水原さん…は、俺に話があったのでは」
「別に、用事はない」
どういうことだろうか。
「転校生、名前は?」
「一条葵」
「一条はどうして私の名前を知ってる」
「クラスメートに聞いた。────ついでに、東京出身だってのも」
俺の聞き間違いでなければ、舌打ちが聞こえた。
「誰から聞いた?陽?それとも一条の担任?」
「いや、横山」
「誰?」
わからないなら聞くなよ。
「水原さん有名みたいだったし、東京から来たこと、みんな知ってるんじゃないか。俺が誰に聞いても多分同じ答えを得てたと思う」
「…そう。それと私のこと、悪目立ちなことくらいわかってるから気を使って有名とか言わなくていいから」
「悪目立ちの自覚はあるんだ」
「私だって好き好んで悪目立ちなんかしてない」
水原は、はあと小さく溜息を吐いた。
「…」
「…」
会話が途切れる。
しかし俺は呼ばれてきたのであって、話をしにきたのではない。
水原の言葉はどこかぶっきらぼうだった上に舌打ちまでして少し恐いが、少なくとも俺に敵意がある訳ではない気がする。
では何故俺は呼び出されたのか。
用事がないなら教室に戻っていいのだろうか。
「一条は、今の学校生活は楽しいの」
思考を遮るように、急に世間話が飛んできた。少し困惑しつつも質問に答える。
「そこそこかな。通学中に悪鬼に襲われることもクラスメートがいきなり教室を破壊することもないし」
「それは同然でしょうが…」
あ、呆れてる。
「実際コンビニも映画館もない町だし不便ではあると思うけど。平穏だし、悪くない。…水原さんは楽しくないの?」
「私は、────」
言葉に詰まったと思えば二度目の舌打ちが聞こえた。
「なんで『楽しくないか』を聞くんだよおかしいだろ」
「いや…だって水原さん楽しそうには見えないし」
「……不満はある。私は普通に学校生活を送りたかったし」
「いやぁ金髪にピアスでその発言はちょっと…」
「あ?」
「スイマセン」
頼むからそんなに睨まないでくれ。
「もういい。…一条、昼ご飯は?」
「いつもは購買でパン買ってる」
────不意に何か投げられた。
ビニール袋だ。中にはコンビニのサンドイッチ。
「購買、この時間はもう残ってないから」
それだけ言い残すと、水原は上の階に上がっていった。
これは、解散ってことかな。
俺は自販機でお茶を買うと、教室に戻った。
「あ、一条が無事生還した」
教室に帰るなり誰かがポツリと呟いた。水原、なんだと思われているのだろう。確かに口と態度は少し悪かったけど。
席につくと、少し遅れて昼食を始める。
「ん?それどうしたんだ?購買のじゃないだろ」
横山が尋ねるので何かと思えば、サンドイッチのことを言っているようだ。
「水原さんに貰った」
「どゆこと?てか用事はなんだったんだ?」
「それが、よくわからなかった」
「なんだそりゃ」
一緒に食べている男子の1人が口を開く。
「東京じゃ普通なん?呼び出しておいてよくわからんけど飯は貰うみたいなの」
「…放課後呼び出されて告白でもされるのかと思ったら食われかけたことなら…うわ、食事中にする話じゃなかった。今のナシで」
「え、食われるってマジに食われるって意味?」
「ノーコメント」
「は?詳しく聞かせろし」
「いや絶対思ってる感じじゃないから」
あの時は本当にヤバかった。俺は血みどろになった当時の教室を思い出して食欲が失せた。
今日の陽との放課後は学校を回ることになった。
目的は部活見学だ。
前の高校で帰宅部だったこともあって部活に無理に入ろうとは考えていなかったが、興味がなくはなかった。
「こんな時期から入るのもって感じだけどさ、文化部だったらまだ入りやすいんじゃない?大会とかなさそうだし」
陽さん、それ偏見ですよ。
「どうせだから私も部活に入っちゃおうかなー。一条くん、入る部を決めたら教えてね」
「一緒のとこ入る気満々じゃん…」
「冗談。家の手伝いが忙しいからね」
「家の手伝いっていうと」
「ほら、私の家、神社の神主だし」
「なるほど?」
「私の話はいいでしょ。見学行こっか」
こうして室内の部活を中心にふたりで部活を見て回ることになった。
「────という訳で来たよ!」
「何がどういう訳なんだ」
部室棟の部屋のひとつで、陽と横山が漫才を始めた。
「それがね?かくかくがしかじかで〜」
「おう、何もわからん」
「とにもかくにもひきこもごもなんだよ〜」
「さては適当に喋ってるだろ」
耐えかねて口を出す。
「部活の見学に来たんだ」
「ウチの部の?そもそも一条は部活に入るのか?」
「正直未定。緩い部活なら入ってもいいかな、くらいだけど」
「それじゃ文芸部はおすすめだな。基本暇で自由参加みたいなもんだし。部員は5人しかいない弱小部だけど」
文芸部の部室は、壁の一面に広がる棚に本や冊子が並んでいた。
1年生だという女子生徒が俺と陽にお茶を淹れてくれる。俺達は2年生だから、後輩だ。
「粗茶ですが」
「お構いなく」
「ありがとねー」
長机の上にはお茶請けとして煎餅が置いてある。俺と陽はパイプ椅子に腰掛けると、ずずっとお茶を啜る。
「横山くん、私から質問していいかな」
「構わないけど、入るのって一条だよな」
「私も緩い部活なら入れるかなって。丁度良いから一緒に見学してるんだよ」
「そういうことならなんでも聞いてくれ」
「ではこほん────そもそも文芸部って何をする部活なの?」
「文芸、つまりは本に関する部活だな。読んだり書いたり」
「へぇ〜。書いたりもするんだ」
「通年で何かしら書いて、夏の間にその年の部誌を作るのが慣習だな。それを9月の学校祭で配布して実績にしてる」
「もしかして私達も入ったら書かなきゃいけない?」
「普通の部員ならそうだが、もう7月だからな。今からとなると部誌に間に合うか微妙だし、強制はされないだろ」
「それじゃ、それ以外の時間は何をしてるの?」
「大体、部室に集まってお茶飲んで本読んだり駄弁ったりしてるだけだな」
「うわ、超緩いね」
「だろ?そんなもんだから自由参加なんだよ」
横山が部屋を見渡して肩を竦める。現在この部屋にいる文芸部員は、横山と後輩の女子生徒のみ。5人中2人なら出席率は半分以下だ。あまりに緩い。
「逆に俺から陽さんと一条に質問なんだが、二人は普段本を読むのか?」
「私は全然だなー…」
「俺もあんまり読まない方かな。年に数冊とか」
「読んでる方だよそれ。私なんて去年読んだ本『生き方を教えてくれる魔法の言葉』だけだよ」
「よりにもよって自己啓発本…」
「実際のとこ文芸部入部に読書の経験は問わないが、部員は読書好きなやつが多いからな。活字じゃなくても漫画とかドラマとかに興味あると、部室内で話が合って居心地が悪くないと思うぞ」
横山は俺達を文芸部に勧誘するというより、俺達が文芸部に合うかどうかを優先している。
「それじゃ、そろそろお暇させてもらうね。ほかの部活も見学しにいくから」
「ありがと横山」
「あいよ。気に入ったら入部してくれ」
頃合いを見て、陽と俺は退散した。
続いて演劇部、軽音部、茶道部、校舎変わって美術部、吹奏楽部、書道部と回った。
どの部にも陽の友達がいたのもあり、見学はスムーズに進んだ。俺だけだったら気後れしていただろうし、助かった。
主な文化部の見学を終え、教室に戻った。時刻は18時、太陽の姿は見えないが、未だ空は明るい。
「どうだった?気になる部活あった?」
「強いて挙げるなら文芸部かな。緩そうだし」
「奇遇だね、私も同じこと思ってた」
本気なのだろうか。
「文芸部室でも言ったけど、自由参加みたいな緩い部活くらいなら私にもできそうだと思ってさ。一条くんも一緒に入ろうよ」
「検討しておく」
「前向きにお願いね!」
念を押された。
「あ、忘れてた。話変わるんだけどさ、お昼休みに水原さんに呼ばれてたよね。結局何だったの?」
陽は行かない方が良いかもと忠告をくれていたが、俺がそれを聞かずに行ったから怒っているのだろうか。
俺は水原との会話を思い出す。そういえば────水原の口から陽の名前が出ていた。あの時は聞き流していたが、水原にとって陽は何かしら思うところがあるのは確かだ。
「結局そこまで大した話はしなかったけど。陽、水原さんが東京から転校してきた時にも色々としたんだろ」
これは水原ではなく横山から聞いた話を元にしている。
陽と水原の過去に何があったかが気になったのだ。要は、探りを入れている。
「私も必死だったからねー…」
「一応言っとくけど、水原は多分魔法少女じゃないよ」
「まあ、そうだよね」
陽から話に挙げることもなく、俺からも口にしなかった魔法少女という単語。一瞬タブーを犯したかのような気がしたが、陽の反応は淡白なものだった。
しかしその直後。
「じゃあアレは────なんなんだろうね?」
つまらなそうな陽の言葉に反して、俺はどこか背筋が寒くなるのを感じていた。
きみとなつのおわり 二 一卜 @asprsss
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