第29話 ティムの態度と戸惑い
「公爵様にはあの、秋の日に全てを話した」
お父様はそんなに早くからご存じだったなんて。
「最初は信じて貰えなかったよ。でもフローリアの事、王宮での出来事が段々と俺の言う通りになる事で、少しずつ信じて貰えた。だから、『
「ガーランド伯爵とその派閥の反対があったのよね……」
「ああ。夫人は王と王太后に恨みがあるからね。評議会に預ける気はないらしい」
「破滅を望んでいるのかしら?実の弟なのに……」
「母親が心を病んで、妹が死を選び、自分も望まぬ相手に嫁がされたんだ。恨みもするさ……」
(妹の自死?初めて聞いたわ。三人のうち真ん中の姫がバークレー領で病気で亡くなったと聞いていたけど)
「もちろんウィリアム王が何かした訳じゃない。マーガレット様がウィリアム王を王太子にするためにした事だ」
「でも、なぜエドワードが狙われるの?」
「エドワード様を狙うのは、フローリアだ。お腹の子を王太子にするために。そしてその言いなりになって実行犯になるのがウィリアム王だ」
私は心の中で悲鳴を上げた。なぜウィリアムがそんな事をするのか。
「でも、デイジーがいるわ!」
伯爵令嬢だった第一側室から生まれたデイジー姫の方が、フローリアの産んだ子より順位が上だ。男子がいない場合は、女子が王太子になる。だから、マーガレット王太后があれほど、三人の王女を遠ざけたのだ。平民から側室になった子が、いくら男子でも王太子にはなれるはずがない。
「最近、ビアンカ妃が静かだと思わないか……」
「そういえば……」
「ディジー姫は、病気でここ半年程、原因不明の病気で臥せっている。俺は内密にビアンカ妃から助力を求められた。フローリアの権勢が強くなっている時に、王女の病弱を知られたくなかったので、大事にしたくなかったそうだ」
(まさか!それもフローリアが……?)
「そう、多分フローリアが関係している。半年前に相談された時、俺が君に黙っているようにビアンカ妃に言ったんだ。悪く思わないでやって」
「デイジーは大丈夫なの、まだ七歳なのに!」
「ああ、極秘で僕が薬を与えている。もう少し治療はかかるけど、心配ない。この事はルイス医師にも協力して貰っている」
何て事だろう。私の知らない間に、ティムがそんな事までしてくれていたなんて。
「でも、どうしてこんなに大変な事を私に教えてくれなかったの?」
「……君に話して今後の対応が変わると、向こうの手の内が変わる可能性がある。だから公爵様とも相談して、万全を期して前回通りの紹介の儀に挑む事にしたんだ」
(もう後は、紹介の儀を待つばかりだけれど……)
だが、不安だ。エドワードに死の危険があると言われて、どうして冷静でいられようか。私は早鐘を打つ心臓を鎮めようと、何度も深呼吸を繰り返した。
「君のこの心臓の状態も、暴走を起こした前回の名残の可能性がある。だから、どうか俺を信じて欲しい。必ず、君と王子を守るから」
「……あなたがいない間、不安だったわ」
「……ごめん。魔塔で準備をしないといけなかったんだ。俺が戻ったと同時に、魔塔で規格外の魔力が検知された。だから、魔塔にはすぐにバレた。時戻りの技は禁忌だ。それを見逃してもらうための見返りを返すのと、協力を頼む必要があった」
「君の側を離れている間はものすごく不安だった……。だからあの時計を預けたんだ。実は君の会話も全て聞いていた……」
(え!)
「時々、俺の名を呼んでくれたよね……」
ティムがいたずらっぽい目で私を見る。この人はこうして時々人をからかう癖があるのだ。
(うそ!聞いてたの!)
「君に何かあれば、その場で駆け付けられるよう、転移魔法陣を仕込んだ時計だ。ボタン押してって言ったでしょ?」
「先に言ってよ……」
ティムがいないと寂しい、早く帰って来てと何度呟いたかわからない。
(ティム、人が悪いわ……)
私は赤面して彼をなじったが、笑って取り合ってくれない。
「……ソフィア、いいかい。これからが勝負だ。必ずフローリアの尻尾を掴む。だから、紹介の儀まで、絶対に時計を離さないで」
「エドワードは?紹介の儀まであの子を守らないと」
私は自分より、エドワードの方が心配だ。命を狙うならいつだっていいはずだ。
「それは俺が準備してる。それに、今まで観察して来たが、前回の通りに現状が進んでいる。狙われるのは紹介の儀だ。公爵家と魔塔が全面協力して体制を組んでいる」
「魔塔が?」
「ああ。魔塔は国家を守るために作られた。フローリアのした事は……反逆罪だ。あの女一人捕まえても、蜥蜴の尻尾切りになるからね。今回の件に関与した者はすべて、一網打尽にする」
「私に出来る事はない?何でもするわ!」
ティムは私の瞳を覗き込んで、私の髪を一筋手に取りそれに口づけた。
「目の前で失った君が、今こうしてここにいる……。俺にとってそれ以上望むものはないんだよ。だから、どうか絶対に死なないでくれ。気にして欲しい事はそれだけだ」
私はティムの行動に戸惑った。こんな熱を含んだ瞳に見つめられる事は初めてだった。彼から聞いた信じられない言葉の数々。そして、ティムの私に対する態度。どう受け止めていいのか分からない。
「ソフィア、ごめん……。戸惑うよね。やっと本当の事を話せたと思って、ちょっと自制が利かなくなった。でも、俺は君を傷つける事も、何かを要求する事もない。だから……安心して」
ティムは私から手を離した。
「さあ、ソフィア、もう部屋に戻って」
いつものティムの口調で控えの間のドアを示した。
(ティム、私まだ顔が赤くて、ローレンを呼べないわ……)
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