第28話

「七美が言うのは、こうやって後ろを振り向くんでしょ?」


「あ、うん」



七瀬がシートベルトを外して、運転席で私の方へと身体を捻った。



「まず、この時点で助手席の彼女に近付けるでしょ?」


「うん?」



なんの話がしたいのか、いまいち状況が掴めずに小首を傾げながら返事をすると、



「で、自分の方を見ているであろう彼女にーー」



そう言って、七瀬がグイッと私の顔の真ん前まで自分の顔を近付けてきた。



「ーーキス。」



七瀬と至近距離で目が合う。


え、え、え!?


私が目を見開いたところで、七瀬がクスクス笑いながら離れていった。



「ってのを、二階堂君によくされてたんじゃないの?七美?」



び、び、びっくりしたっ!!!


瞬時に顔が真っ赤に染まっていくのが自分で分かった。

けど、え、私、どっちの意味で!?


七瀬の顔が近過ぎたからなのか、文也の行動を言い当てられたからなのか。


赤くなったのは多分、いや、絶対後者のはずなんだけど、何だろう…?この動悸の激しさは…?



「盛った男が取る常用手段よ。さーて、お腹すいたわー。ご飯に行きましょ?」



何事も無かったように、サッサと降りる七瀬に、絶対後者だ!と、自分に言い聞かせて、私も車を降りた。

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