「君が笑顔でいられますように」

第31話

週末、土曜日の朝。

ここ最近の曇り空とは打って変わって、この日の空は綺麗に晴れ渡っていた。


坂道を駆け上がると、いつもの桜の木の下で私に気付いた夏向さんが静かに顔を上げた。


苦手な坂ダッシュで苦しかったはずの胸が

目が合うだけで一瞬で夏向さんでいっぱいになる。


幸せが2倍になるこの感覚が好きだった。



「夏向さん、おはようございます!」



私の声が聞こえているのかいないのか

夏向さんはいつも通りイヤホンをケースに片付けながら小さく頭を下げる。


普段ならいつもこのタイミングで嫌そうに顔を顰める夏向さんは黙ってちらりとこちらを見上げるだけで何も言わない。


それは毎朝ここへめげずに姿を表す私へ慣れたとかじゃなくて、きっと、嫌な顔をされる理由がないだけだった。


その理由は1つ。

いつもならここで続けて行う“愛の告白”だ。


だけどこの日の私はにっこり笑って

そのまま桜の木にも触れずに体育館の方へ足を進める。


ルーティンを無視した私に気付いたのか

少しだけ夏向さんが不思議そうな顔をした気がしたけど、私はそれに気付かぬふりでそのまま体育館へと向かった。

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