第28話

「ねえねえ。夏向さんって彼女いるんですか?」

「……今更?普通最初に確認するだろそれ」

「へへ、思い付かなかったんです。いてもいなくても私の気持ちは変わらないから」



じろりとこちらを横目で見下ろす夏向さんに、私は肩をすくめてつい笑ってしまう。


答えるつもりがないのか、呆れ顔の夏向さんがため息をついたきり黙り込んでしまうから、諦めた私は質問を挿げ替える。



「前に言ってた“好きな子”とは結局付き合えたんですか?」



続けた私の質問に

夏向さんの眉がぴくりと微かに揺れる。



“俺、他に好きな子がいるから”



中学時代。

初めて思いを打ち明けた私に夏向さんは確かにそう返事した。



夏向さんが答えない可能性だってあったし

どんな答えが返ってきても多分別に平気だった。


黙ってその横顔を見守る私に

夏向さんはふと遠い目をして、ぽつりと答えた。



「付き合えたけど、半年前に振られたよ。他に好きな人が出来たんだってさ」



そうこちらを見ぬまま小さく笑う夏向さんに

ずきっと痛んだ胸が、両手で持ったジャーよりずっと重くなる。

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