第27話
「大丈夫ですよ。返してください。これは私の仕事ですから」
「は、なんだよ意外と真面目なんだな」
私の反応が予想外だったらしく
夏向さんは小さく笑ってから、横目で私をじろりと見下す。
「別に助けにきたわけじゃないから自惚れるなよ。お前の戻りが遅いから部員が水飲めなくて困ってんだよ」
そう呆れたように吐き捨てて
それでも夏向さんはジャーを手放さずに足早に体育館へ戻ろうとする。
「! それはすみません!じゃあせめて片方持ちます」
それを追いかけてどうにか片方だけジャーを剥ぎ取ると、夏向さんはそれ以上抵抗せずにあっさり私へ荷物を預けてくる。
どうやら見られていなかったらしい。
夏向さんの涼しい横顔を見上げながら、思わずほっとしてしまう。
そんな私の気持ちを知らない夏向さんは
こちらを見ぬままため息を吐くと、ぽつりと呟いた。
「1人で運ぶ量じゃねぇだろ。誰か呼べばいいのに」
溢れた小さなその声に
私は思わず目を見開いてしまう。
……やっぱり助けにきてくれたんじゃん。
そう心の中で呟くと
なんだか胸が熱くなって、つい目を伏せる。
そういえば、さっきまであんなに早足で戻ろうとしていたのに、気付けば歩幅もあわせてくれている。
口は悪いし愛想はないし
時々少し分かりにくいけど
―――本当に、優しいんだ、この人は。
一度ぎゅっと唇を噛んでから
私はこっそり隣を歩く夏向さんを盗み見る。
その横顔が傷付いていなさそうなことに、こっそりほっと息をついてから、私は小さく笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます