第27話

「大丈夫ですよ。返してください。これは私の仕事ですから」

「は、なんだよ意外と真面目なんだな」



私の反応が予想外だったらしく

夏向さんは小さく笑ってから、横目で私をじろりと見下す。



「別に助けにきたわけじゃないから自惚れるなよ。お前の戻りが遅いから部員が水飲めなくて困ってんだよ」



そう呆れたように吐き捨てて

それでも夏向さんはジャーを手放さずに足早に体育館へ戻ろうとする。



「! それはすみません!じゃあせめて片方持ちます」



それを追いかけてどうにか片方だけジャーを剥ぎ取ると、夏向さんはそれ以上抵抗せずにあっさり私へ荷物を預けてくる。



どうやら見られていなかったらしい。

夏向さんの涼しい横顔を見上げながら、思わずほっとしてしまう。


そんな私の気持ちを知らない夏向さんは

こちらを見ぬままため息を吐くと、ぽつりと呟いた。



「1人で運ぶ量じゃねぇだろ。誰か呼べばいいのに」



溢れた小さなその声に

私は思わず目を見開いてしまう。



……やっぱり助けにきてくれたんじゃん。



そう心の中で呟くと

なんだか胸が熱くなって、つい目を伏せる。


そういえば、さっきまであんなに早足で戻ろうとしていたのに、気付けば歩幅もあわせてくれている。



口は悪いし愛想はないし

時々少し分かりにくいけど


―――本当に、優しいんだ、この人は。



一度ぎゅっと唇を噛んでから

私はこっそり隣を歩く夏向さんを盗み見る。


その横顔が傷付いていなさそうなことに、こっそりほっと息をついてから、私は小さく笑った。

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