第25話

一本道だから迷う事はないし。


ここまで来といて、今更タクシー捕まえるのはやっぱりもったいないし。



歩いてりゃいつか着くだろってな、そんな軽い気持ちで俺はその坂道を上り始めたのだった。



が、しかし。


さっきから歩いても上っても走っても歩いても上っても走っても歩いても上っても走っても…





「全っっ然着きやしねぇ!!!」




受験で終わったと思われた【鈴蘭】への道のりは、文字通り未だ遠かった。


周りに誰も居ないのをいい事に、俺の口からは心の叫びが駄々漏れ中。



つか逆に誰かいてほしいんだけど。

車が一台も通らないとかどういうわけだコノヤロウ。

ヒッチハイクもできやしねぇ。





「てか前髪うぜぇなぁ、やっぱ出る前に切っときゃよかった。」




んな風にイライラしながら坂道を行く中。


更に俺をイラつかせるのは、伸びに伸びきった前髪で。



地獄のスパルタ受験勉強に入試、更には寮に荷物送ったりアパート引き払ったりと何かと忙しかったから。


カットすんのを後回しにし続けた結果、放置され過ぎた俺の前髪はすでに目元をモッサリと覆うまでの長さに。



元々全体的に髪短かったから、左右と後ろは未だショートカットを維持してんだけど。


前髪ばかりはどうしても。



ここ最近はずっとピンで前髪を留めてたんだけど、そのお気に入りのピンは現在行方不明中。


多分、先に寮に送った荷物ん中だろうなぁ。



視界が悪くて片手で髪を掻き上げるも、ワックスもなけりゃ水気もないから。


掻き上げても掻き上げても掻き上げても掻き上げても…






――モサッ…





「…うぜぇ。」




鈴蘭への道のりは、


まだまだ遠いようです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る