第9話 きっと飲みすぎたせい
お兄ちゃん、なんて思わずひっくり返りそうなお出迎えをされてしまった。
きっと何かのアニメで妹キャラが出てきたんだろうな。
でも妹は三つ指をつかないだろうから、それはまた別のアニメからの影響か。
「変なコトばっかり覚えないといいが……」
そんな貴志の心配をよそに、アイリスは目を輝かせている。
その目はテーブルに置かれたハンバーグ定食に釘付け。
「ふん、ふ〜ん。ふふふふ〜ん♪」
ご機嫌にそんな鼻歌まで歌っているほどだ。
これは確か、なんかのアニメのOP曲だったか。
「いただき、ます!」
「お、上手にいえるようになったんだな」
貴志もアイリスに続いていただきますといって、牛丼を食べ始める。
紅生姜たっぷりに生卵をトッピングするのが貴志のスタイルだ。
ついでにキンキンに冷やしてあったビールも開けた。
「く〜っ!」
やっぱり仕事で疲れた体にはこれが一番だ。
ふと、見るとアイリスが箸の持ち方に悪戦苦闘している。
「あ、気が付かなくてごめん。持ち方を教えてなかったな」
そういって、アイリスに箸の持ち方を教えてあげることにした。
しかし言葉なしでこれを教えるのは、なかなかに難しい。
「そうそう! それで中指を支えにして人差し指に力を入れて……」
「むー、繧��縺後▽繧翫◎縺�」
さすがにいきなり箸を使うのは無理だったようだ。
貴志は台所からスプーンを持ってきて渡すと、アイリスは悔しそうな顔で受け取った。
まあ昨日のように「あーん」してあげるのも、やぶさかではなかったが。
アイリスは受け取ったスプーンでハンバーグを器用に切る。
そして、わくわくした顔で口に運んだ。
「むー、おいちい」
「おお、美味しいも覚えたのか! え、アメマ見てただけで? アニメって凄いんだな」
いや、アイリスが凄いのか?そんなことを考えながら牛丼をかきこむ。
どうやらアイリスもハンバーグに舌鼓を打ってくれているようでなによりだ。
食事が終わると、アイリスにシャワーへ入ってもらう。
その際に、今日買った下着を渡した。もちろんタグを切ってから。
このブラジャーは頭から被るタイプだから、アイリス一人でもつけられるはずだ。
「今日はちゃんと下着をつけてから出てきてくれよ?」
アイリスは分かっているのか、いないのか、曖昧に頷いた。
あとはトリートメントの使い方やらをどうにか教えて、ドアを閉める。
すぐにシャワーの音が聞こえてきた。
どうやらシャワーの使い方はマスターしたようだ。
三本目のビールを開けたところで、アイリスがシャワーから出てきた。
どうやらちゃんと下着をつけているらしい。
そんな彼女の姿を横目で見ながらルームウェアを渡すと、貴志もシャワーを浴びにいく。
開けてしまったビールは、終わってからの楽しみにしておこう。
スッキリして出てくると、そこには顔を赤くしたアイリスがいた。
体を揺らして、ふんふんと楽しそうに鼻歌を歌っている。
「縺昴l縺ョ繧薙〒縺ソ縺溘>っ!」
貴志がシャワーから出てきたのに気づくと、アイリスが何かをいいながら指をさす。
その先にあったのは——ビールだった。
「え、これ飲んじゃったの?」
「んっ!」
貴志の問いかけに笑顔で頷くアイリス。
アイリスは一体何歳なんだ?果たしてお酒が飲める年齢なのだろうか。
まあ美味しくビールが飲めたのなら、向こうでもお酒を
「ねえねえ。タカシ、繧上◆縺励�縺阪@縺ォ縺ェ縺」縺溘�?」
何を言っているかは分からない。
けれど、ぴたりと体を寄せ、上目遣いで何かを聞かれているのは確かだ。
「縺ェ繧薙〒繧医¥縺励※縺上l繧九�?」
上気した様子で呼吸も荒くして、さらに問いかけてくる。
それに答えてあげられないのが少しもどかしかった。
「わたし、繧上◆縺励′縺ァ縺阪k縺薙→。縺薙l縺上i縺�□縺九i……」
切なそうな顔をしたアイリスは、ルームウェアのファスナーに指を掛けた。
そしてゆっくりと手を下げていく。するとぷるんとした豊満な双丘が見えてきて——。
「ダメだって」
貴志はアイリスの白い手に、そっと手を置いた。
「なんとなく伝わったよ。多分、お礼がしたくなったんだよな? 自分にはこれしかないから……って覚悟を決めた顔してたもん」
「むー」
「でもそういう気持ちでしたくないっていうかさ。くだらないプライドだけど」
興奮する気持ちを抑えつけて、貴志はなんとか紳士的であろうとする。
もちろん頭の中では、アイリスとあんなことやこんなことをする妄想が駆け巡っていた。
けど、やっぱりこんな状況で手を出すのは……卑怯だ。
アイリスは右も左も分からず、知り合いもいないような状態で、頼れる人が貴志しかいない。
だから捨てられないように自分を犠牲にすることを選んだのだろう。
そんな関係じゃ心の底から気持ちよくなれない。
「おいおい、泣くなって……」
「タカシ、アイリス……いや?」
「そんなわけないだろ! むしろ可愛くって仕方がないよ」
首を振って嫌いじゃないことを伝えると、アイリスが貴志の胸に飛び込んできた。
思わずふらついてしまうくらいの勢いで。
そして、ギュッとしがみついてくる。
離れないで欲しいと、体全体で伝えるように。
だから貴志も、それに応えてギュッと抱きしめ返してあげた。
こういう時はきっとそうしてもらいたいはずだろ。
例え二人の生まれた世界が違ったって、それはきっと変わらないだろうから。
「そっかそっか、急に捨てられないか不安だったよなぁ……」
「うん、うん」
アイリスは貴志の胸で泣く。貴志はアイリスの頭をなでる。
そんな甘い時間がしばらく続いていた。
「すぅ、すぅ……」
「ん、寝ちゃったのか」
貴志は小さな寝息を立てるアイリスを抱っこすると、ベッドへ運んであげた。
そして自身も隣に寝転がって、アイリスの幸せそうな寝顔を見つめる。
肌が白いから、ほっぺたが赤くなっているのがよく分かる。
柔らかそうな頬を思わずつんつんすると、アイリスがむにゃりと口を動かした。
「んータカシ……しゅきぃ」
「まったく……飲み過ぎだっての」
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