第29話

鍵でもたくさんぶら下げているのか、男が歩く度にジャラジャラと賑やかな音がする。


その騒がしい音は、男の凜とした佇まいには不似合いで違和感があった。


男は手にしていた鍵を牢屋の戸に差し込むと、格子の戸を開けた。


そしてわたしの目の前まで来ると膝まずき、顔を近付けてきた───。







薄暗い部屋。


汚れた壁。


両手足に手錠。


こんな、状況なのに。


相手は、誘拐犯の一人なのに。






近付いてくる男の顔は、息を呑むほど美しくて見とれずにはいられなかった。


陶器のような滑らかな肌に、長い睫毛。


薄く、艶やかな唇──。







彼が悪人なのだとしたら、神様はなんて罪なことをしたのだろうか。

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