第8話

そう───。




確かいつも通り学校が終わって…いつも通り校門前でわたしを待っていた車に乗り込んだんだ。


学校への送り迎えは、運転手の佐々木さんがしてくれる。


幼稚園の時から、ずっとそう。


40過ぎの、優しくて穏やかな小柄なおじさんで、佐々木さんが運転しているのは黒塗りのベンツ。


毎日洗車してワックスをかけて綺麗にしているから、驚くほどピカピカで艶やか。


当たり前みたいに毎日放課後は、そのベンツがわたしを待っている。


その日も、ピカピカで黒塗りのベンツがわたしを待ってくれていた───。





だから、わたしは何のためらいもなくその車の後部座席のドアを開けた。


いつもは運転席から出てきて佐々木さんがドアを開けてくれるのに、その日は出て来なかったから、少し不思議には思ったけど。


ボーッとしてたりうたた寝してたりして、わたしが来たことに気付かなかったんだろうって、対して気には止めなかった。


今までだって、ごく稀にだけどそういうことはあったから。











───だけど、わたしの記憶の最後に残るのは、誰もいないはずの後部座席から突然現れた人影。


サングラスにマスクに黒のニット帽──確かそんな出で立ちで、わたしがドアを開けた途端、わっと両手を伸ばしてきた。








イタイ


コワイ


ナニガオコッタ?






思考が巡ったのはたった一瞬のことで、そこからわたしの記憶は途切れている───。

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