第30話

───改札を抜け、わたしは一人ホームに佇んだ。


ベンチでは背広姿のおじさんが、一人俯きウトウトとしている。


目線を下げると、ホームの先に真っ暗な線路が見えた。


深い深い、吸い込まれそうな黒。


まるで、見えないわたしの未来みたいに。






小さくため息を漏らしたわたしの頭に、ふと彼の姿が浮かんだ。


いつも一番後ろの窓際の席で、誰とも話さず一人教科書を見ている彼。


真剣な眼差しは、決して周りの人を、わたしを見ることはない。






───高校に入学して1ヶ月半。


どうしてだろう。


恋をしていたあの人の影が薄れるにつれ、彼を目で追うようになっていた…。

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