第29話

1年前、あの人に恋をした。






顔もわからない、年だってわからない男の人。


グレーのパーカーに、少し擦りきれたジーンズを履いていて。


いつも、噴水の脇に座って遠くからわたしを見ていた。







───ある出来事があって以来、彼はここには来なくなった。







それでも彼に会いたくて、毎日ここで彼を探した。


だけど彼はもうここには来る気配が無くて、その内父が蒸発してそれどころじゃ無くなって、一度はわたしは彼を探すのを諦めた。


でも数ヵ月を経てみたら──やっばり彼に会いたくて。


気付けばこの噴水の側のカフェを、バイト先に選んでいた。


でも彼は、やっぱり待てども待てども現れる気配が無くて。










その内に、いつしか心の中の彼の面影も薄れてしまった。

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