第8話 マッドサイエンティストな仲間が出来ました

「すみません、募集の紙を見てきたのですが、ここで間違いないでしょうか」


 ここはとある国の、そこそこ繁盛している酒屋

 中には人が沢山いて、ほとんどが木製で出来た椅子とテーブルが並んでおり、黄色い照明も相まってどこか暖かい雰囲気を感じる酒屋だ

 そこで俺は誰でも貼れるコルクボード製の掲示板に募集紙を貼り、仲間を募集していたが、誰も来る気配はなく、俺はただ机に突っ伏してぐでーっとしていた

 そんな中、少女がそんなことを言ってきた

 俺より頭一個分小さい身長に整った顔立ち、艶のある黒色のショートヘアと黄色の目をしていて、この街では見たことも無い白衣を着た、まるで医者のコスプレをした少女のような姿だ


「えっと、俺のパーティーに入りたいってこと?」


「はい」


 少女は真剣な顔で返事をするが、俺はそんな少女みて未だに信じられないでいた

 何故なら


「この世界ってこんな子供も戦うのか?」


 どう考えても13歳くらいの見た目だったからだ

 しかし俺から耳打ちされたルナは特に驚く様子もなく、平然とパイを食いながら応える


「当たり前だろ、試験的だが、適当に異世界からお前を連れて帰るほどには人が足りないからな、子供が働くなんてのは当たり前だ」


 そんな労働基準法もへったくれも無いことを言ってきた


 どんだけこの国やべぇんだよと俺が思っているとずっと待たされていた少女が「あの...」と俺を呼び掛ける


「ああすまんすまん、そうだな、とりあえず自己紹介してくれないか?」


 そういうとその少女は自己紹介をしてくれる


「私はクレア、この街で研究部員を勤めている科学者です」


 あれ、俺パーティーの仲間を募集しに来たんだけど、貼り紙間違えてねぇか?

 俺がその自己紹介に首を傾げているとクレアは続けた


「私が入りたい理由は研究する為の費用が欲しいんです、私の同僚もポーションを売ってちまちま稼いでいますが、私にはそういうの苦手なのでパーティーに参加したいのです!」


 なるほど、見た目によらずしっかりしてるな


「俺は鈴木和也だ、気軽に和也って呼んでくれ」


 俺も自己紹介を済ますと、さっそくクレアに質問した


「研究員ってどんな戦い方するんだ?戦うイメージがいまいち掴めないんだけど」


 そういうとクレアは懐から緑の液体が入った、いかにもな三角形のポーションを見せて言ってきた


「私は戦う力はない代わりに現在研究している毒などの兵器を使って戦う予定です」


 まじかよ、見かけによらずエグい戦い方だな


「なんでそんなもん研究してるんだ?国に頼まれてんのか?」


「よくぞ聞いてくれました!」


「うぉ!?」


 クレアは待ってましたと言わんばかりにいきなり顔を近づかせ、輝いた目で言い始める


「私が毒に興味を持ったのは、元々親が研究員で別の研究をしていて、最初は研究なんか興味なかったのですが、毒ってなんでも蝕んだり溶かしたりするじゃないですか!あの煙を上げ、全てを喰らい尽くさんとするあの毒の美しさ!!親が金属や骨を毒で溶かすところを見せてくれて私はその美しさとかっこよさに感銘を受け!なんでも蝕み、溶かす毒を開発したいと強く思ったのですよ!」


「おう...」


 俺はいきなり饒舌になるクレアに対して困惑しながら返事を返す

 これあれだ、押しちゃいけないオタク特有のスイッチ入ってしまったヤツや


「とりあえずわかった、詳しい話は後で聞いてやるから落ち着け」


 そう言って俺は未だ興奮するクレアを落ち着かせると、クレアはルナを見始めた


「そういえば、可愛らしい猫さんですね、和也さんも実験とかに使うんですか?」


 はい!?いきなり何とんでもねぇこと言ってんだこいつ!?

 俺はルナのほうを見てみると、俺と同じくいきなりとんでもない事を言われたルナはビクッ!とオッドアイの瞳孔を大きくしてクレアを見る


「おっこの子言葉が分かるんですか?」


 そんな事を言いながらルナをじっと見る

 じっと見られたルナは震えて泣きそうな目で助けてと訴えてくる

 コイツもしかしてあれか?マッドサイエンティストって奴じゃないのか?

 そのうち俺も実験台にするとか言わねぇだろうな

 俺はこいつに対して不安を覚えながらもルナを助けるべく


「やめてやれ、そいつ怖がってるだろ、こいつは俺の使い魔で、実験体じゃないぞ」


 俺はそう言ってルナをだき抱えてやる


「使い魔!?あなた使い魔なんて居るんですか!?」


 そうクレアが大袈裟に驚く


「全く、ここまで命の危険を感じたのは初めてだ、私はルナだ、よろしくな」


 そう言いながらルナはクレアをジト目でみる


「じ、冗談ですよ!実験体になんかしようと思ってませんでしたから、だからその目で見るのはやめてください!」


 クレアはルナのジト目から目を逸らし、目を合わせないようにしている


「ルナさんが使い魔ってことは和也さんってかなり上級の魔法使いだったりするんですか?」


 何とか話題を変えて乗り切ろうとしているのか、クレアはそんなことを言う


「いや、そんな事ないよ、冒険始めたての初心者さ」


「えっ!?そうなんですか?じゃあなぜ使い魔が居るんですか?」


 使い魔ってそんなすごい存在なのか?使い魔って特に何もせずめんどくさがり屋で隣でぐでぇっとしているだけのペットじゃないのか?

 俺が、なんでこんなに驚いているのか分からないといった顔でルナをみる


「おい、自分をなんだと思っているのか正直に言ってみろ」


「食いしん坊なペットの猫」


「ぶっ殺」


 俺はいきなり飛びかかってくる短気なルナを抑えながら使い魔についてクレアに聞いてみた

 クレアの話によると使い魔ってのは、魔素の塊である精霊が強い魔法使いと契約して、代償を払う代わりに膨大な力を得る事が出来るとのこと

 そして代償をもらい、契約した精霊は、契約者が息絶えるその日まで、従い尽くすらしい

 俺はルナと契約したことになっているのだろうか、だとしたら代償は何を...まさかここに来ることか?

 だけど代償ってなにか払うもんだろ?なら違う気もするし...ダメだ、まだ来て2日目だから知らないことが多すぎて分からん

 それにこの世界何起こるかも全く予想つかないし

 そういえばクレアは確か使い魔がいると膨大な力を受けるとかも言っていたが、俺はその膨大な力を受けていない気がするんだがそれはなんでなんだ?

 俺はそんなことを真剣に考えているとルナが、心中を見透かしたかのように


「まずな、自分のような精霊に力を分けてもらうには少なくとも20レベルくらい無いと無理だぞ、今お前に魔素を与えると耐えれなくなってボンってなる」


 って言ってきた、ボンってなんだボンって

 だが要するに20レベになったらコイツの力が使えるわけか、確か自然の精霊って言ってたから、自然の力が使えるとかだろうか?そいつはちょっと気になるな


「まぁとりあえず、近くの森に行ってレベル上げしようぜ、クレアがどう戦うのかも見てみたいし」


 俺はそういうと席を立ち、酒屋のドアを開けた


 俺たちは早速レベル上げをしに森に来た

 草があまり生えていない茶色い地面に、相変わらず背の高い曲がりくねった木々がたくさん生えている

 その為、影が多いので少し暗く、怖い雰囲気が醸し出されている

 だが透き通った空気と鳥のさえずりも聞こえてきてなかなか悪くない森だ

 とりあえずモンスターを探すために歩き進めていく


「あ、あれなんだ?なんかぶら下がってるんだが」


 俺は石みたいなのがぶら下がっている若干明るい色の木を発見した


「あれはカキの木ですよ、たまにこの森に混じって生えてるんです」


「柿の木か?にしてはぶら下がってんのゴツゴツしてねぇか?」


 どう考えても甘くなさそうなんだが

 するとルナがこたえる


「覚えてないのか?昨日の晩御飯に出てきたヤツだよ」


「オイスターの方かよ!!」


 なんで牡蠣が木からなるんだよ!どうなってんだ

 そんな会話をしていると、ふと後ろの茂みがカサカサっと揺れた気がした

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