第2話.追放


 転移してきてから一週間。

 こちらの生活にも慣れてきた皆は、騎士団長先導の元魔物討伐に勤しんでいたが、何故かカフカだけは王の間へと足を運んでいた。


「カフカ……と言ったか?」

「は、はぁ……」

「貴様……デバッファーという職業がどういう立ち位置か知っておるか?」

「いえ、ただ戦闘においては最重要になりうる職業では……?」


 その言葉に一瞬眉を顰めたかと思えば、高らかに笑い声をあげる。


「良いかこの世界でデバッファーとは、役に立たぬゴミだ。この世は力が全てそのような小細工しか脳がない無能などはなから用済みじゃ」

「……は?」


 何を言っているんだこいつは。

 この世界がゲームでは無いことは第一としても、デバッファーは必須級の役割だろう。


「他の勇者たちは、皆最低でもCランク以上の実力を持っている中、貴様はEランク程度。何が言いたいかはもう分かるな?」

「なるほど……そういうことか」


 つまり、テンプレ通りに行けばこのまま追放……ということになる。


「あなたは僕のことを……追放したい……と?」

「そういうことだ。他の勇者たちには魔物に食い殺されたとでも伝えておこう」


 瞬く間に見えない鎖で体を縛られる


「ひとつ聞いておいても?」

「なんだ?最後にひとつ聞いておいてやろう」

「魔王がどうこう言ってたけど、あれ本心じゃないでしょ?本当の目的は?」

「そうじゃなぁ……昔から異世界からやってきた勇者は突出した力を持っている。その力を国同士の兵器として使うのも……悪く無い。どうじゃ?これで満足か?」

「清々しいほどのクズだな……勝手に呼んでおいて道具として扱う……か」

「クックック。なんとでも言うがいい負け犬よ」


 声高らかに笑う王。

 王の間に響く笑い声と共にギギィと扉が開く。


「な、な、な、ゆ、勇者様方……?」

「何してるんだ!!」

「僕がテンプレを予想していないとでも?このことも全て予想して信頼の出来る唯一の友に王の間に出向く時間を言っておいたんです。ラノベ中毒舐めないでくれ」


 にやりと笑うカフカ

 入ってきたのは勇者筆頭のアラタと転移した全ての生徒たち。


「それにしてもアラタ……えらく人数連れてきたね。五月雨さんだけ姿が見当たらないけど……」

「あぁ、あいつは回復魔法の訓練で別行動だ」

「いつもごめん。助けてもらってばっかりだ」

「気にするな。俺とお前の仲だろ……なんてな」


 瞬間、鎖で身動きを封じられているカフカの鳩尾に凄まじい衝撃が走る。


「カハッ」


 呼吸すらままならない状況で、カフカは蹲る。


「はぁーーーやっとだ。やっとお前が居なくなるのか」

「ほんっと点数稼ぎお疲れ様アラタ」

「お前はこいつにいつも絡みすぎなんだよタクト」

「だってよぉーーーこいつ見てるだけで腹が立つだろ。五月雨とお前に似つかわしくないのにずっと金魚のフンみたいについてってるんだから」


 その言葉に悔しさを覚えるカフカ。


 確かにいつも守ってもらってばっかりで、あまりにも全てがかけ離れている二人と一緒にいた事に自分すら劣等感を感じていたことは確か。

 だが……変わろうとしていた……。

 何が悪いんだ……陰キャで何が……。


「ずーっと疎ましかったんだよお前が。さつきに気に入られてるお前が。良いか?さっきは俺のものだ。あいつの貞操も心も全て俺が貰う」

「なぁなぁ。俺にも五月雨少し使わせてくれよ」

「ちっ、まぁ、いいぞ」


 そうか、はなからグルだったのか。

 五月雨からも教師からも印象を良くするために陰キャにも優しい男を演じていた……と。


「クズどもが……!!」


 這いつくばっていたカフカは見下すような視線を送るタクトとアラタを必死で睨む。


「くそが……!!」


 僕の中の……俺の中のヒーローは。

 憧れは崩れ去った。


「くそが……!!!」


 力があれば……。


「話は済んだぞ。王様。俺は正直あんたが俺たちを利用しようが関係ねえ。感謝するぞ。やっと忌々しい敵を駆除できることに」


 あぁ、まただ。

 またこの視線だ。

 生徒たちの冷ややかな視線。

 流れに逆らわずにただただ、見て見ぬふりをするクズども。

 こいつらも同罪だ。


「利害の一致……ということじゃな。ふむ。では、こやつは予定通り……」

「あ、待てよ。せっかくならさ。あっこにとばしてやれよ。亡骸の森」

「な!!?貴様も中々に悪どいな」

「言ってろクズ王」


 眩い光が体を包む。


「一応こちらにも体裁があるのでな……これくらいは渡してやろう」


ポンッとこちらに投げられたのは、古びた布袋。


「じゃあな無能」

「ぷっ。お前本当に最初っから最後まで使えなかったな。お疲れ様」


 アラタの見下すような視線。

 タクトの嘲笑。

 数名の笑うクラスメイト達

 他の冷ややかな我関せずの視線。

 全てが、全てが憎い。

 だが、不思議と心地の良さが勝っていた。


「お前たちは一生理解できないだろうな。いつか見せてやるよ。」









 この世界で最弱と言われているデバッファーの必要性を。








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