第1話.テンプレ転移
―――― キーンコーンカーンコーン
爽やかな朝。
涼し気な風に吹かれ一之瀬カフカは教室へ足を運ぶ。
二度目の春を迎え、クラス替え後の生活に慣れて来ている生徒たちだが、そんな中カフカ本人は、コミュニケーションが得意ではないため、教室へつくとすぐに別のクラスへと足を運ぶ。
「あらたーー……」
「また来たのかお前……」
「そんな冷たい視線を浴びせないでくれ。僕だって自分のクラスに馴染みたいと努力はしてる」
隣のクラスの生徒である二階堂あらた。
去年同じクラスになり、意気投合した唯一の友だ。
「ところで、昨日のあれはみた?」
「あれ?あぁ!魔法老婆か!!あれはアツかったな」
あらたとはアニオタという接点があったため、こうして前日に放送されたアニメのことについて語り明かしている。
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作者のモチベになります。
「なになに!!なんのはなししてるの!!」
割って入って来たのは、学年のマドンナである五月雨さつき。
あらたとは同クラスの上幼馴染であるため、こうして毎日のように僕たちの会話に介入してくるのだ。
あらたからは両思いと聞いているため、僕はできるだけかかわらないようにしている。
「あ、あーーー、あの「なんだよさつき、俺達の会話の邪魔をするな」」
「むーーー、邪魔ってひどくない!!」
大和撫子という言葉がふさわしい黒髪ロング清楚系美女。
頬を膨らませているのも非常に絵になる。
「お前はアニメにも特に興味はないだろ……」
「あるよ!!ほら……えーっと……」
二人の会話を微笑ましく眺めているとそこに……
「あぁ……?なーーーんで陰キャがさつきちゃんと絡んでるのかなぁ」
「……」
「七夜……」
去年同じクラスだった七沢たくと。
赤髪短髪で頬に傷。
ガタイがよくラグビー部などにも誘われているが、結局は七沢に気圧され今では近づくことすらない。
なぜか僕にやたらとつっかかってくるヤンキーだ。
「おい、何見てんだ陰キャ?」
「……理不尽な……」
ぼそっと呟いたその言葉を聞き逃さなかった七沢に胸ぐらを掴まれる。
「はな、せ……」
「あぁ?お前……何俺に楯突いてんだ」
足が床から数センチ浮くほどに持ち上げられたカフカ。
クラスのほぼ全員が嬉々として見ているこの状況に、悔しさを覚えるが何も出来ずにそのまま足掻く。
「……あ?」
呼吸すらままならないカフカは目を瞑っていたが、カフカを掴んでいた右手に何者かの手が。
「離せよ」
「あ?お前が離せよ」
あらただった。
いつもそうだ。
たくとに何かされる度に、助けてくれたのは唯一の友であったあらただ。
「ちっ、これだからクラスの人気者は。点数稼ぎご苦労さま」
舌打ちと同時に、振り落とされるカフカ。
「カフカくん大丈夫ッ!?」
駆け寄ってくる五月雨。
女の子にさえ心配される自分に情けなさを覚えながらも、カフカは立ち上がる。
七沢は、横目でカフカを睨むとその場をあとにする。
「いつもごめんたくと」
「気にするな」
アニオタという一面を持っているタクトだが、五月雨同様この学校に知らない人はいないほどの有名人である。
どの部活からもスカウトが来る運動神経。
五月雨と並び学年ツートップの学力。
誰にでも分け隔てない接し方で、皆に好かれている。
おまけに、顔もいいと来た。
非の打ち所のない男なのだ。
先ほども、七沢の介入を面白がって見てた生徒たち。
だがしかし、あらたがそれを止めたことにより空気が一変した。
そんなクラスの空気も一瞬で変えてしまうことができるのがこのあらたという男なのだ。
親友でありながらカフカの中の憧れでもあった。
「僕にもそんな力があったら……」
「ん?どうした?」
小さくつぶやいたその言葉に首をかしげるあらた。
「いや!なんでもない」
「そうか」
優しい笑みを向け、あらたは手を差し伸べる。
「ありがとう」
その手を取ろうとした瞬間。
「なんだ!?」
突如として、教室の床がまばゆい光を放つ。
「これは……ッ!?」
あまりにも非日常的な光景に、一瞬思考が停止するも察するカフカ。
「魔法陣が!」
あまりの眩さに目を閉じる。
これは間違いなく、ラノベで言うところの異世界転移というやつだ。
カフカが状況を把握するとともに、目を開くと視界には見覚えのない場所が広がっていた。
「よくぞ来られた勇者たちよ」
「なんだよここはよォ!!」
怒りを露わにする七沢。
おそらくは王の間と呼ばれる場所。
眼の前には厳格そうな王が鎮座していた。
「やっぱりか……」
そこからは、テンプレ通りに話が進んでいった。
ヴァーグロンド王国が今魔族の侵攻により、危機に瀕していること。
その危機を脱するため、他の世界から勇者を召喚したこと。
最初は取り乱していた生徒たちもいたが、魔王を倒せば元いた世界に返すという言葉を鵜呑みにし、それからは黙々と状況の整理に勤しんでいた。
「早速で悪いが、これより君たちの所持している能力をこの水晶玉で測らせてもらう」
その言葉を聞いて喜んだのは、男子生徒だった、
やはり男というのはいつ何時でも、こういう要素には心擽られるものだ。
「まず、五月雨さつき殿。あちらへ」
王に言われるがまま水晶の場所へと足を運ぶ五月雨。
「こ、こうですか?」
隣にいた魔法師に手順を教わりながら、五月雨は水晶に手をかざす。
「そうです。まぁ、さつき様は初期段階でBランク級冒険者ほどの実力を……な、な、」
「え、な、なんですか!!」
「陛下……この者……いえ、このお方は現段階でAランク級の素質を有しております……成長次第ではSランクも……」
「な!?なんと!?」
その言葉を聞いてカフカは頷く。
「現実世界での個々の能力の高さも影響しているのか」
誰にも聞こえないように小さくつぶやく。
「五月雨さつき様。推定ランクは現段階でAランク。
『おぉ!』と兵士たちから思わず声が上がる。
ラノベの知識からするに、勇者と並ぶ知名度の高い職業なのは間違いない。
勇者パーティには必須の職業だ。
「と、いうことは……」
「こ、こちら、あ、あらた様……推定Sランク……」
その魔法師の言葉に、数秒の静寂が王の間を包むが、衝撃の隠せなかった王は思わず立ち上がり目をぱちくりとさせていた。
以降は、淡々と行われた能力調査。
驚くことにAランク適正のある人間は、数人いた。
「残るは……カフカどの……?だったか。そちらへ」
Sランクが出た今、もはや用済みと言わんばかりの対応に少し怒りが湧くものの大人しく水晶玉に手をかざす。
「……カフカさま……
その言葉にたくと以来の静寂が王の間を包んだ。
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