第9話 ハーレムパーティー

 ゴブリンを倒し、周囲に敵がいないことを確認して、僕は少し息をついた。レベル2になったことでゴブリン相手には慣れてきたけど、油断は禁物だ。


 次に進もうとしたその時、遠くから声が聞こえてきた。


「こっちよ! ゴブリンがまだいる!」

「うわっ、助けて! 後ろに来てる!」


 賑やかな声に誘われて、その方角を振り向くと、そこには年齢的には同い年ぐらいの四人組のパーティーが戦っていた。


 彼らは僕と同じようにゴブリンと戦っているのだが、どうやら苦戦している様子だ。


「や、やばい! もう無理!」


『おっ?! 他の冒険者と遭遇か?』

『向こうはパーティーか』

『けっ! 男一人に可愛い女の子三人ってハーレムパーティじゃねぇか!』


 僕のコメント欄が荒れるのはやめてくれ。


 中心にいたのは、リーダー格らしき男、少し頼りなさそうな少年で、剣を手に持ちながら後退している。

 そして彼をサポートしているのは、三人の女性たちだった。


 コメント欄曰く、ハーレムパーティーと言われる四人組。


 弓を構えた長髪の気の強そうな美少女が、的確にゴブリンを狙って矢を放っている。


 戦士のように大きな盾に小型の槍を持つ子は、少年を必死に守っている金髪の巨乳高身長女性。


 ローブを身にまとった魔女っ子が、呪文を唱えているが、少し焦った様子だ。


「ちょ、ちょっと待って……呪文がまだ……」


 彼女は必死に詠唱を続けるが、どうやら間に合わなそうだ。


 魔女っ子にゴブリンが迫ってきて、四人とも気づいていない。

 少年はとりあえず、パニックに陥って足手纏いだ。


「……仕方ないな」


 僕はヒノキ棒を握りしめ、彼らに向かって駆け寄った。そして、ゴブリンの背後から思いっきりヒノキ棒を叩きつける。


 ゴブリンは驚いた様子で倒れ、動かなくなった。


「えっ、誰……?」


 魔女っ子が驚いた表情で僕を見つめる。


「大丈夫?」


 僕が声をかけると、リーダーの少年がようやく我に返り、僕の方を見た。


「だっ、誰? 俺たちの戦いだぞ! 邪魔するなよ!」


 助けたのに、いきなり怒られてしまった。

 うーん、確かにカリンさんから、ダンジョンで他の冒険者が戦っている際に、横入りしたら怒られることがあるって聞いていたけど、まさか今の状況で怒られると思わなかった。


 彼の後ろから、弓を持った長髪の美少女が僕の方に近づいてきた。


「ちょっと、私たちの獲物よ! ゴブリンなんて初心者のモンスターなんだから、手を出さないでよ!」


 どうやら僕は余計なことをしてしまったようだ。


 大人びた雰囲気で、見た目にも美しい女性に叱られるのは辛い。

 弓を構える姿も堂々としていて、彼女の強さが伝わってくる。


「もういいじゃない。そろそろ疲れたよ……」


 金髪の盾持ちの高身長女性は、僕のことを見ることなく疲れたことを愚痴っている。彼女は大柄で強そうに見えるが、無関心といった感じだ。


 そして、魔女っ子も僕に突っかかってくるかと思ってげんなりしていると。


「……あの、ありがとう。呪文が間に合わなくてごめんなさい」


 彼女は小さな声で、お礼を言ってくれる。青いローブを身にまとい、小柄な体で少し不安そうにしていたが、その顔には素朴な可愛さがあった。


「気にしないで。無事ならそれでいいよ」


 僕は彼女にだけ見えるように笑顔で伝えた。こんな風に感謝されるのは、少し照れくさいけど悪くない気分だ。


「ふん、お前、一人で戦ってるのか?」


 リーダーの少年が僕に声をかける。


「まあ、そうだね。レベル2になったばかりだけど、なんとかやってるよ」

「だから、卑怯な手を使ってゴブリンを横取りしようとしたんだろ! 俺たちだけで倒せたんだ!」


 少年の言葉に俺は相手をするのも嫌になってきた。


「そうか、余計なことをして悪かったな。俺はもういく。俺が倒したゴブリンはお前たちにやるよ。じゃあな」

「ふん!」


 魔女っ子だけが、俺に頭を下げてくれて、他の三人は当たり前だという態度をしてきた。


「大丈夫よ、ヒロ。私たちがサポートするから、次も一緒に頑張りましょう!」

「そうよ、みんなで力を合わせれば、絶対に進めるわ!」

「うん……頑張ろうね!」


 3人の女性たちがリーダー少年を励まし、パーティーは再び士気を取り戻したようだった。


 弓使いの少女を先頭に、パーティーは先へ進んでいった。僕も彼らの背中を見送りながら、再び自分の冒険を続けるために歩き始めた。



 僕と同じ新人冒険者のパーティーを見てうらやましくは思いはしたが、感じの悪い彼らをみているとパーティーを組むのは難しいと思えてしまう。


 僕は知り合いもいないので、組む相手がいない。


「さて、今日もEランクダンジョンであるゴブリンダンジョンに挑戦していきます!ユウタです。今回はレベル2になったことで、前よりも効率よくゴブリンを倒せるようになりました。なので、今日はその様子を配信しながら説明していきますね!」


『さっきの奴らのことなんて気にするなよ!』

『マナーがなってねぇな!』

『これだからハーレム野郎はいけすかねぇ!』


 配信をスタートして、視聴者数も少しずつ増えてきた。コメント欄には応援メッセージや、冷やかしも混ざっているけど、いつものことだ。


 今日はあのパーティーの話題で持ちきりになってしまった。


「まぁまぁ、気分を直してください。えっと、僕が学んできたことのお披露目コーナー。このゴブリンダンジョンの基本から説明します。ここは小さな山の中にゴブリンが巣を作っているんですよ。ゴブリンたちは巡回しているので、ダンジョン内を歩き回っていると定期的に遭遇するんです」


 俺はカメラに向かって話しながら、ゴブリンダンジョンの入り口に足を踏み入れた。すぐに薄暗い小道が続いている。


「初心者冒険者たちにとって、このダンジョンは割と人気の場所なんです。理由はシンプルで、ゴブリン5体倒すと2000円がもらえるんですよ。初心者には貴重な稼ぎです。数をこなせば、そこそこ稼げます」


 視聴者からのコメントが流れてくる。


『2000円か、まあまあだな』

『5体倒すのにどれくらいかかるの?』

『稼げるのか?!』


「いい質問ですね! 今までは、僕もゴブリン1体倒すのに結構時間がかかってたんですが、レベル2になってスキルが増えたおかげで、だいぶ効率が上がりました。前は1体倒すのに数分かかっていたけど、今はその半分くらいの時間で倒せます」


 そう言いながら、ダンジョンの中でさっそく巡回しているゴブリンを発見した。


 周囲を確認して、敵が1体だけであることを確認する。


「さあ、ゴブリンが現れましたね。まずは、スキル『直感』を使って相手の動きを事前に察知してから、スキル『スイング』で武器を振りやすくします。ヒノキ棒でも、このスキルがあれば十分に戦えますよ」


 俺はヒノキ棒を構え、ゴブリンに向かって走り出す。ゴブリンが攻撃してくる前に、直感でその動きを予測し、すぐさま棒を振り下ろす。


「これで1体目ですね。次に進みます!」


 倒したゴブリンが地面に倒れ込むのを確認しながら、俺は進み続けた。効率よく動き回りながら、2体目のゴブリンにもスムーズに対処する。


「ゴブリンが5体いる場所を事前に知っておくと、さらに効率が上がります。今ではゴブリンの巡回ルートを把握しているので、無駄な移動を減らせるんです」


『すごいな! めっちゃ効率的じゃん』

『さすがレベル2、動きが違う!』

『次のゴブリンもがんばれー』


 コメント欄にも視聴者の興奮が伝わってくる。


「ありがとうございます! では、次のゴブリンを見つけに行きます」


 3体目、4体目もスムーズに倒し、ついに5体目のゴブリンにたどり着く。


「これで5体目です! 5体倒せば報酬2000円ゲットですね。今回は思ったよりも早く終わりました。大体20分ぐらいでしたね」


 俺はゴブリンを倒し終えたあと、報酬を頭に思い浮かべながら視聴者に感謝を伝える。


「こうやってレベルが上がっていくと、効率的にゴブリンを倒せるようになって、稼ぎも増えます。最初は苦労しましたが、皆さんの応援のおかげで、今ではかなり安定して倒せるようになりました! 次の配信でももっと強くなって、さらに上のダンジョンにも挑戦したいと思いますので、ぜひ応援よろしくお願いします!」


 コメント欄には応援のメッセージが流れていて、配信の締めくくりも上々だった。


「それでは、今日はここまで。また次の配信でお会いしましょう! えっ?」


 配信を終わろうとしたら、いきなり大きく地面が揺れた。


「地震?」


『お兄ちゃん!』


 いきなり大きな地震が起きると、コメント欄にサクラのコメントが流れる。

 

 何が起きたのかわからないけど、絶対に生きて帰る。

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