私と俺の六限目
六六三
一話 出会い
いきなり言うのも変だが私には、少しおかしいところがある。らしい。
そのすこ~しだけおかしなところのせいでクラスメイトは変な目で私のことを見てくるし、忌み嫌って避けたりもする。
私は耳がすっごくいいから陰口で私のことを「気持ち悪い」だの何だの言う声もよく聞こえてくる。
そんな周りからしたら気持ち悪い私はクラスの輪になじめず割と悲しく一人ぼっちになっています。
中学の頃と違って変な目で見てきたり陰口言うだけで嫌がらせとかはないからまだましかなと思うけど。
私の少し変なところは簡単に言うと、見た目や話し方だ。
一人称が私。
髪の毛は腰まで届くほど長い。
学校の制服に至ってはスカートを履いている。
どこにでもいる女子高生の恰好、何もおかしいところなどない。
まぁ男子で無ければの話だが。
高校に入学してすぐの頃は普通に過ごすことができていたのだけれど、学校生活に慣れてくる二学期になると少しずつクラスの中で浮き始め、二年生になった今では息さえもしづらい教室になっています。
嫌われて嬉しいことはやっぱりないです。
話せる人がいなくなるし友達もできないし、本当はもっと周りと仲良くしたり友達を作ったりだってしたいのに。
というかなんで私がこんなに思いつめなきゃいけないの?
皆が同じように普通に接してくれるだけでいいのにさ。
スカートだって男が履いたってなにも減るものなんてないじゃん。
とりあえず私のことを知ってから読んでほしいです。
「おはようございます……」
早朝の静かな教室に暗そうな声が響く。
こんな時間に登校する人はこの学校で私くらいだろう。
理由は、登校して人がいる教室に入った時の一瞬注目されるあの感じが嫌で嫌で仕方がないからだ。
もはやルーティンと化した動きで荷物を整理し、教室の後ろに向かう。
ふん ふん と先程の声からは想像できないほど陽気なテンションで育てている観葉植物に水をあげた後、席に戻って好きな小説を開く。
教室に誰もいない朝早いこの時間は私にとって至福のひとときだ。
広い空間を独り占めできる感覚というのだろうか、優越感とはまた違う気もするが。
そうだ、ついでに今日の時間割を確認しておこう。
今日は金曜日だから、これか。
物理、数学、また数学、体育に英語……
うわ、私の苦手な科目ばかり。はぁ、憂鬱だ… 帰りたい。
ん? この六限……
「選択科目……?」
選択科目か、うーん、何を選んだんだっけ?
あまり興味がなくて覚えてない。
私はこういう時のためにいつもメモをしてあるはず。
恐らく全て手帳に書いてあるでしょう。
手帳をパラパラとめくっていく。
お、あったあった。偉いぞ私。
開いた手帳に書いてあった選択科目は、
「家庭クラブ?」
確かにこんなのを選んだような気がする。
大勢いるところは苦手、運動とか勉強系も極力避けたいと考えて選んだんだっけ。
よくよく考えると意外と私に合った選択科目な気がするな。
料理とか裁縫をやる科目だと推測し、趣味でソーイング&家事で料理をよくやっていることを踏まえて計算してみると……
なんだと、この私が活躍してしまう⁉
これはもしかして、学校生活最大の転機なのではないか?
毎週あるこの選択科目で私が大活躍、すると私に対して尊敬の念が抱かれるようになり、クラス内でも私に対する扱いが改善される。
お次にカーストは上位へ変更、友達は百人できて毎日のように私に料理の教えを乞う。そしてクラス内だけには収まらず学校全体が私に畏怖するようなる。
私は世界のカリスマ的な存在になり人生薔薇色となるのだ!
完璧なシナリオだ。
普段より心臓の鼓動が速い気がするな。
学校の授業が楽しみになるなんていつぶりだろう。
考えれば考えるほど期待は募っていき私は有頂天になっていた。
早く六時間目にならないかなぁ~
この時の私はまだ知らなかった。
あんなことになるなんて……
その日の授業はやけに遅く感じた。
この五限が終わったら次は選択科目が始まる。
普段、英語の授業は眠くて仕方がないのだけれど今日は違った。
なんだこの集中力は……本当に私なのか?
ふは、ふはは、今ならどんなに難しい問題が来ようとも解ける気がするぜ。
私のテンションは最高潮になっていた。
『キーンコーンカーンコーン』
やる気のないチャイム音、五限終了の合図だ。
私はすぐさま六限に必要な荷物を取り出し、家庭科室へ向かった。
廊下を急ぐ私をいつもと違わぬ好奇の視線が貫く。
誰かに見られるというのは私にとって不快であり普段であればもっと静かに目立たぬよう過ごしているが、今の私は無敵だぜ? ふっふぅ 効かん効かんぜ!
昼休みに予習で行っておいたので迷わずにすぐ着いた。
私の準備が早かったのかまだ家庭科室には誰もいないようだ。
すると突然、後ろから声がかけられる。
「あら、キミ早いね~」
振り向くと、少し背の高い女性が立っていた。
その人は、顔に掛けた眼鏡越しに黒い瞳で私を覗いている。
し、知らない先生だ……家庭クラブの担当の先生かな?
生徒の履くチェック柄スカートとは違う黒のストレートスカートが彼女を教師と教えてくれる。
バレッタで束ねたミディアムの黒髪をポニーテールに仕上げ、仄かに化粧をした唇に微笑をたたえているその人は、私にとっての理想像というべきか、そんな大人のお姉さんのように見えた。
「あ、私、選択科目が家庭クラブで……」
惚けたような声が出てしまった。
こんな美人な先生がこの学校にいたなんて知らない。
「うん、知ってるよ~私担当だからね」
先生が目を細め少しゆっくりとした口調で言う。
「えーと、まさくんであってるよね?」
「え、はいあってます」
「はいよろしい、私はね家庭科の木下で~す。キノちゃんって呼んでね~」
「よろしくお願いします! キ、キノちゃん……!」
先生がちろっと舌を出しながら言ってくる。かわいい。
当たりの予感がするのは私だけか?
私が目をキラキラさせていると先生はひと言、教室に入って待っててと言い職員室へ行ってしまった。
少しお茶目な所がありそうで、それでいてなんだか包容力がある先生だな。
そんなことを考えながら私は先生の後ろ姿をぼーっと眺めていた。
ここの選択科目人気ありそうな気がする……人数多かったら嫌だな……
そんなことを考えながら一人残された私はとりあえず言われた通りに教室の中へ入ることにした。
方向を変え教室のドアを開けて足を動かそうとしたその時……!
後ろの空気が重くなった。
え、何……?
背後のプレッシャーのせいなのか、息が吸いづらい。
得体の知れない何かが後ろに迫ってきているのを感じる。
何が……?いや、誰か……?
辺りの温度がみるみる下がってゆく。
どうしようと頭の中が恐怖で埋まり、生存本能が逃げろと警鐘を鳴らしてくる。
怖い。私は震える身体を無理やり動かし後ろを向いた。
そこには、一人の少年が私を睥睨していた。
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