第17話 はじめての朝その1

朝、俺の目を覚ましたのは扉から聞こえるノックの音だった。


「あい」


寝ぼけまなこで返事をする。

扉が開く。女性がいた。

フライパンとお玉を掲げている。

疑問を口走るよりもそれは早かった。

女性は笑顔を浮かべたまま、後者を前者に打ち付けた。


カンカンカンカン!


切り裂くような音が部屋中に広がる。

その音は俺の鼓膜を直で攻撃するだけでなく壁に当たり、天井に当たり、跳ね返っては俺に戻り更なる波状攻撃を仕掛けてくる。耳を塞いだ時には既に頭の中で音の振動がザクザクと暴れまわっていた。


やがて、段々と振動が収まっていく。


静寂。


俺の不機嫌な薄目と女性の能天気な薄目がかち合った。


「朝ごはんよ~~」

「うるせえよ」

「ひどいっ。せっかく呼びに来てあげたのに!」


 怒りを露わにした。


 カンカン!


「それだよそれ。うるせえって」

「あら。うるさいって私じゃなくてコレのことね」


 掲げていた手を下ろしては音の原因をしげしげと眺めて、


 カン!


「やめろや」

「一度はやってみたかったのよ調理器具ぶつけて朝起こすの」

「近所迷惑だ」

「ここら辺ほとんど更地で近所に誰もいないじゃない」

「俺に、迷惑だ!」


 乱暴に上体を起こす。部屋に備え付けられている時計を見た。

 時刻は朝七時半。俺からすればあまりに早い。


「……何の用だって?」

「朝ごはん。涼帆ちゃんと一緒に作ったからぜひ」

「なぜ俺の分まで作る」

「同居してるのに無視するなんて悪いじゃない」

「まったく理解できんな、その感情」

「そう?」


 悩ましげに女性は顎に指を当てた。


「んー、でも、もう健司君以外はみんな来てるから」


 自身の頭を軽く撫でて、笑った。


「おいで」


 一方的に伝えて部屋から出ていった。


 ……わからん。

 少女もだが、あの女性も。

 さらりと少女のことも涼帆って呼んでたあたり、二人はそれなりに仲良くなったらしいが。

 他人とそんな簡単に名前で呼び合えるものなのか?

 距離感がバグっているようにしか思えん。

 ……とはいえ、俺も朝から起床する予定ではあったし、朝飯は食えるなら食いたい。

 呼ばれたからには喜んで行くさ。

 ……いずれ借りを返せと言われた時の対処を考えとかないとな。

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