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第34話


不破とカフェでお昼ご飯を食べた。その後はゲームセンターに行った。


騒音の漏れるゲームセンターを物珍しそうに見ていたのだろう、不破に、行ったことがあるか尋ねられた。「行ったことがない」と答えれば「じゃあ行こう」と突発的に入って行った。


店内には爆音がそこかしこで鳴っていた。声を張らなくてはならなくて、それがだんだんと楽しくなった。クレームゲームをして、カーゲームをした。ゾンビを打った。お菓子を取った。太鼓も叩いた。不破はたまに本気で笑った。それが嬉しかった。



「楽しかった。ありがとう」



ゲームセンターを出て不破を見上げる。



「あんた大声出んのな」

「声が嗄れそう」

「嗄れたら電話して。聞きてえ」



時計の針がそのうち18時を指す。18時になったら、私は千尋くんと顔を合わせる。


いつも出会う前から緊張が奥底に潜んでいて、前髪に触ったり服装が気になったり頻繁に鏡の前に立ったりと忙しない。無意識のうちに脳裏に日和を描いていて、日和に近付こうと背伸びをしている。でも、今日は例外らしい。


緊張と実感とは無縁に街を歩きながら、ふと呟いてみる。



「――これから千尋くんに会うの」



不破は「千尋くん?」と興味の欠片もなさそうな顔で尋ねた。



「好きだった人」

「あー。良かったね」

「良かったなの?」

「なんだかんだ会いたいもんだろ」



不破はもうすっかり経験したことがあるようなことを言う。



「でも、その人彼女がいるのよ」

「彼女もいるだろ」

「来春結婚するのよ」

「結婚もするだろ」

「義理の兄になるのよ」

「そんなこともあるって」

「……まあ、そうだけど」



不承不承引き下がれば、雑な返事をしていた不破はふと笑った。



「つか、境遇似てんね」

「え?」

「俺の元カノ、今俺の義理の姉」

「……あさみさん?」

「そう。あさみさん」



不破は、半分嘲笑い半分面白がりながら、私の頭を掴んで顔を覗き込んだ。



「きょうだいと結婚しようが死にはしねえよ。安心して祝っとけ」



その表情が新しくて、私はこんな話題で楽しくなる。



「あなた実はポジティブでしょう」

「あんたに感化されたんじゃねえの」

「でもすごく説得力があるわ」

「じゃあ、意味ねえっつったのも信じろよ」

「それは納得がいかないから無理なの」



不破は呆れて。



「まあ、全部無駄だったって思い知らされて来れば」



見下すように、ほんの少し私の味方に立った。



    

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