8話‎𖤐隣人ガチャ、大当たり?

小顔で、長身。おまけに手足だって長い。すれ違った女子が振り向く程の美貌をお持ちの和泉さんは、高校の頃は親族の美容室でサロモをやっていたらしい。これはお兄ちゃん情報だ。


中学生の頃からずーっと、黒髪ストレートのわたしとはちがい、和泉さんは毎回今風の髪型だった。


社会人の和泉さんを前回初めてみたけれど、都会的なオシャレさを味方につけていたし、大人の色気、というものが漂っていた。現に、かっこよさで声も出ないほどだったわけだし……。



「隣人ガチャ、大当たりじゃん!」



わたしの無言を是と説いたのか、みはるがキラキラと目を輝かせた。



「何処が!ただでさえ会いたくなかった人ナンバーワンなのに、まさかのお隣さんだよ!?」



おもわず声を張り上げると「なになに、ワケアリ?」みはるが追求する。まずい、作戦変更。


「そんなんじゃない、ただ、たんに、気まずいだけ」


取り留めのない言い訳で逃げると、みはるは「ふーん」とつぶやいた。


「じゃあ今度合コン組んでよ」


「無理だよ。低燃費というか……お兄ちゃんの友達の中でも特に草食系な人だから」


「へえ。恋愛に興味ない人?」


「……たぶん、そっち。でもすごいモテてた気がする」


「わお。それでも蒼井は兄上ガードのおかげで好きにならなかったの?」


「まあ、そんな感じ」


息をするほどナチュラルに嘘を吐いたけれど、みはるはわたしの過去をのぞくことは不可能なので、作戦はきっと成功だ。


「ねえ蒼井。恋愛における三つのチャンスってあるじゃない?」


みはるのまんまるとした目がわたしを覗き込むので「なにそれ」と、当然のように聞き返した。


「一度目は突然、二度目は偶然、三度目は必然って、しらない?」


「初耳です」


「昔会ったのが突然、今回再会したのが偶然なら、もう一度、全く別の場所で会うことがあれば必然じゃないかしら?と思うわよん」


「……そうかな」


世話好きで情に厚いみはるはこう見えて、勘が鋭い。

友人のひとりが、年上のクズ男の都合のいい女になってる!なんとかしなきゃ!と騒いでいた割りに、クズ男くんが意外にも一途だったことさえも見抜いていたので、気が抜けない。


水槽で息をしていたわたしとは違い、大海原で泳いでいるみはるだ。恋愛に関しての目利きも良いことが、イコールで結ばれているのも、また事実。


……あのね、みはる。聞いて欲しいことがあるの。


喉元まで押し上がって来る言葉を何とか飲みこむ。



「それより蒼井、夏休み中一度くらい帰省したの?」


「お盆だけ、日帰りでね。バイトで忙しいもん」



事実だけ言うと、みはるは「ふうん」とだけ相槌をうった。


わたしを言及しないみはるを見るに、もしかすると見抜かれてしまったかも。


言えばいいのに、口にすると気持ちがにげていっちゃいそうで、自分の気持ちをお腹の底に溜めた。


照りつける太陽から逃げるように。

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