第37話

——私が死んでも、この世界は何も変わらない。母と姉もきっと変わらないままだろう。私は今まで生きることを選んできたけど、それは独りよがりの欲であって、誰かに願われることはない代物だった。




だから、新の言葉はものすごい衝撃波だった。泣き叫びたい衝動が喉元からせり上がってきて、私は嗚咽を堪えることしかできない。

 

 


「ああ、泣かないで」

 



ぽろぽろと涙をこぼす私の目尻を、指先がそっと撫でていく。人を殴りつけた手とは思えない。陽だまりのような触れ方だった。



私はさらに涙の量を増やしてしまって、新は美しい青眼を細めて笑った。そのまま抱きしめられる。布団の中と変わらない、あたたかくてやさしい抱擁だった。



 

「……私、殺されたくない」


「そっか。嬉しいよ」


「嬉しい?」


「うん。モネが生きたいと思ってくれて」


 


至極当たり前のことを呟いたつもりだったのに、喜ばれてしまった。この人は私をどこまで甘やかすつもりなんだろう。際限がなさそうで、これ以上考えても無駄な気がした。

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