第37話
——私が死んでも、この世界は何も変わらない。母と姉もきっと変わらないままだろう。私は今まで生きることを選んできたけど、それは独りよがりの欲であって、誰かに願われることはない代物だった。
だから、新の言葉はものすごい衝撃波だった。泣き叫びたい衝動が喉元からせり上がってきて、私は嗚咽を堪えることしかできない。
「ああ、泣かないで」
ぽろぽろと涙をこぼす私の目尻を、指先がそっと撫でていく。人を殴りつけた手とは思えない。陽だまりのような触れ方だった。
私はさらに涙の量を増やしてしまって、新は美しい青眼を細めて笑った。そのまま抱きしめられる。布団の中と変わらない、あたたかくてやさしい抱擁だった。
「……私、殺されたくない」
「そっか。嬉しいよ」
「嬉しい?」
「うん。モネが生きたいと思ってくれて」
至極当たり前のことを呟いたつもりだったのに、喜ばれてしまった。この人は私をどこまで甘やかすつもりなんだろう。際限がなさそうで、これ以上考えても無駄な気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます