第34話

「う"あ"!!」


 



うめき声が聞こえたのと同じタイミングで、大量の空気が肺に入ってきた。勢いよく吸い込みすぎて、激しく咽せてしまう。



すぐにあのやさしい香りに包まれ、不自然に力が入っていた体が少しずつほぐれていく。





「……平和な日本で元同業者に会えるとは、思ってもみなかったよ」




 

新に肩を抱き寄せられながら、目の前の光景に視線を移し、ギョッとしてしまう。赤い短髪の男が新の長い足に踏みつけられていたからだ。両腕は捉えられ、変な角度に無理やり捻じ曲げられている。男の関節がギシギシと悲鳴を上げていた。





「モネ、怖かったね。もう苦しくない?」



 


暴れる男を力でねじ伏せながら、私にはまるで愛を囁くように甘く問いかけてくる。視界と音の情報が全く釣り合っていない。尻尾の先が戸惑うようにピクピクと震えた。

 




「……苦しくない」


「良かった。まだ不安だろうけど、ちょっとの間だけ離れてもらうね」


「う、うん」

 




声色はやさしいのにどこか有無を言わせない響きに、体は素直に従ってしまう。

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