第32話

庭を照らすのは月明かりしかない。でも、私は夜目が効く。森の奥までは流石に分からないけど、庭の左端に簡易的な小さい扉は見つけた。





「……あそこから道に出られるかも」





近くに交番もあると嬉しい。そこで空港への行き方を教えてもらおう。離島がある実家の近くに身を隠そうと思う。



自然いっぱいなので、隠れられる場所もある程度知っている。あの島には嫌な思い出しかないけど、そうも言ってられない。




「痛っ!」




庭に飛び降りてすぐ、その場から動けなくなってしまった。けがの痛みはほとんどなかったのに、飛び降りた先の地面がゴツゴツしていてそれが地味にクる。モコモコ靴下の中に侵入した小石も足の裏を刺激してきた。



さまざまな痛みが同時に襲いかかってきて、虚しさで唸ってしまいそうになる。




しかも、私はパジャマ一枚の姿だから、寒さで凍えそうになっていた。裏起毛も全く歯が立たない。体はすでにぶるぶると震えている。



足の裏を庇いながらなんとか縁側に座り、重いため息をついた。




……これは、もっとちゃんと準備してから逃げないとダメそう。




新がポカポカあったかくて忘れていたけど、季節は真冬。しかもここは山沿い。めちゃくちゃ寒いに決まってる。装備不十分のまま逃げ出したら、凍死するかもしれない。




私は時折、勢いで行動してしまう。もう20歳になったんだから、いい加減慎重になることも覚えないと。


諸々を反省し、新がトイレに戻ってくる前に家の中に入ろうとした時。




音もなく、頭上から影が降りてきた。

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