第31話

トイレは、常に引っ付いてくる新から離れるための嘘。


 

 

満ち足りた生活は自分を縛る鎖になる。だから、すぐにでも逃げ出すべきだと思った。



あのお風呂はかなりよかったし、新にお世話されるのも極楽だったけど。


甘い夢を見せられて、期待して、それが全て消え去った時。私はどうなってしまうのか。生きようと思えるのか。……なんとなく違う選択をしてしまう気がしてならない。


 


だから私は、一人で生きていくしかない。

 



幸いなことに、トイレの天井近いところに小さな窓がついていた。



そこから逃げる作戦、のつもりだったけど、想像よりもかなり小ぶりだ。便座に乗って近くで確認してみたけど、頭すら入りそうにない。うーん。これは断念するしかなさそう。




音を立てないように気をつけながら、トイレの扉、廊下を挟んでガラス戸、木製の雨戸を立て続けに開けると、案の定、そこには立派な庭があった。



うっすらと記憶が蘇ってくる。聳え立つ木々の間を縫って、私はここに転げ落ちた。あの時の恐怖は凄まじく、思い出すだけで足がすくみそうになる。




庭には簡易的な畑もあって、芝生はきちんと整備されている。新の性格が出てるなと思った。

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