第16話 大丈夫
――何かしてた途中。
――部屋に戻ってそれ続けろよ。
――それ楽しんで。
(…………えっ? レイン?)
私のしていることが、すべて大好きなレインに見透かされているように感じた。
ショックだった。死ぬほどショックだった。
あの後、すぐ部屋に戻るとトイレに駆け込みこれまでで一番激しく嘔吐した。
教皇様達との食事会で、食べた物を全部嘔吐しても吐き気はまったく収まらず、激しく嘔吐し続ける。
私だけの秘密とは違う、大好きな人に自分の
していることを知られてしまう恐怖を、初めて実感する。
やっと吐き気が収まり、乱れたベッドを見て
自己嫌悪しながら、そこに腰を下ろした。
少し冷静になれば、私がオナニーしてることや倉木鷹也をおかずにしてることをレインが、知ってるわけもなく、別の意味で言ったんだと
分かるけど、あの時は本当に私のしてることが知られてしまったと思ったのだ。
今、そうではなかったと分かっていても、私の心は沈んだまま。
レインは、まだ森沢亮次の記憶が戻ってないけど、間違いなく森沢亮次の転生者。
――レインと森沢亮次は同一人物だ。
そのレインを殺した張本人である倉木鷹也を私はオナニーのおかずにしていたんだ。
とんでもなく最低最悪な行為。
こんな私がレインを大好きって、第三者からすれば、頭がイカれてる女だと思う。
それでも、レインのことが大好きで、そして倉木鷹也をおかずにオナニーするのが、気持ち良くてやめられない。
この日ほど、快楽を優先している自分のことが心底情けなくなった。
♢♢♢
「頭、痛った……」
朝、目が覚めての第一声がこれ。
不思議と不快感はない。
「ふふふ、楽しくて飲み過ぎたからかな」
これからレインとある所にお出かけしないといけないのに、これじゃダメだねと思い、自分に対して回復魔法を施す。
「うん、体調はすこぶる完璧になったね!」
今日は特別な日になるので、わたしの一番のお気に入りである白いローブを着ていくと決めさっそく出かける準備に取り掛かる。
あの岸辺でのレインとの話し合いは、とても有意義な時間だった。
これから魔王軍との熾烈を極めた戦いが待ち受けている。 けれど、負ける気が全然しない。
きっとレインがいるからだ。
そう確信させてくれた岸辺の話し合いの後、とても気分を良くしたわたしは、レインの手を引っ張るようにして街へ繰り出したのだった。
少し、いやかなりハメを外して飲んだのか、記憶がところどころ抜け落ちている気が……。
レインにおんぶしてもらって、自分の部屋に戻ってきたのは覚えている……気がする。
「さてと、行きますか」
バッチリ決まった私を鏡で確認して、部屋を飛び出る。レインに着せるための服を抱えて。
♢♢♢
「どんな顔してレインに会えばいいのかな?」
あれから一睡もできず、部屋でただぼーっとしていた私は、レインが朝早くに出かけるのを
思い出した。
一緒に朝食を食べようと思って、部屋を出たのはいいけど、尻込みしている自分がいる。
自分に何度も何度も喝を入れ、意を決っするように食堂のドアを押し開く。
ふと窓の外に視線を移す。
そこには、朝日に照らされキラキラ光る白銀の髪、とても綺麗な白いローブを身に纏ってる
聖女様、そしてまるでお揃いであるかのような白いローブを身に着け、その腰には刀を差して
勇ましく悠然と立っているレインがいた。
レインと聖女様はお互いに頷き、その場から一瞬で消え去った。
「…………」
この時だ、私の中で得体の知れないドス黒い何かが動き出したのは。
♢♢♢
「遅いなぁ、カリン。何やってんだよ。まさか昨日の酒のせいで寝坊とか洒落にならないぞ」
待ち合わせの場所と時間は間違ってないよなと自分自身に確認したけど、俺は間違ってないと再確認する。
「おーい、レイン。お待たせ〜」
小走りでやってきたカリン。
とりあえずは、申し訳なさそうな顔をしてるので、遅刻の件は不問にすることにした。
「おはよう、カリン」
「おっはー」
どんな挨拶だよと突っ込みたくなったけど、突っ込み返されるのが、目に見えていたから、
これまた不問にする。
「これ着て」
カリンが何か抱えていたのは、目にしてすぐ分かっていたけど、さすがにそれが服までとは差し出されるまで分からなかった。
「これを俺に?」
「うん、レインの戦闘服だよ」
聖職者が着る、またカリンが着ているのとは少し形が違うような気がする。
それでも、高品質な服だと分かる。
「俺は、鎧を着るとばかり思ってた」
「はぁ? レインのサムライスキルと鎧なんて相性最悪だよ。この服は相性抜群、聖女カリンが保証するから!」
「そうか。ありがたく着させてもらうよ」
♢♢♢
「うん、凄く似合ってる」
わたしが、レインに贈った白いローブ。
刀を腰に差すその姿に見惚れてしまった。
…………おっと、ダメだねわたし。気持ちを切り替えないと。
「コホンッ。うん、それじゃ、レイン。いい?もう一度確認ね。今から魔王軍が駐屯していると思われる場所に飛ぶよ。わたしの予想では、間違いなくそこにいると思ってる。基本戦略はまず偵察だけど、場合によって戦闘になるよ。でも、安心して。わたしが……」
えっ? 誰? 君は……レインだよね?
わたしの目の前に、刀に手をかけ、冷笑している男がいた。その瞳は、何かを射殺すように一点だけを見つめていた。
「……レイン?」
「何だ? カリン」
あれ? いつものレインだ。さっきの男は。
「分かってる。カリンがいるから俺は何の不安もないよ。足手まといにならないようにする」
「殊勝なこと言うじゃない? そういうところ好きよ。ふふふふ」
――大丈夫。
レインが足手まといになるわけない。あなたのサムライスキルは無敵なんだから。この世界を魔王軍から救う救世主になるのはレイン、君だよ。
「じゃ、行くよ。レイン・アッシュ」
「分かった。聖女カリン・リーズ」
わたしは、死地へ転移魔法を発動させた。
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