第29話

「…なあ、


どうしたっていうんだよ。


さっきまで飯食って

笑ってたじゃねえかよ」


揺すっても、

叩いても、


アカネは起きない。


彼女は独り、

どこまでも眠りに落ちていく。



それは底のない

永遠の眠りなのだ。



わかっている。



二度目なのだ。


アカネは本来戻るべき

所に帰っていった。


それだけのことだ。





…再び、


僕を置いて。




「なんでだよ。


…なんで二度もいっちまうんだよ!



なぁ、アカネ!アカネェ!」



届かない。



どんなに

声を張り上げても、


もうアカネには響かない。



寝息も、


あくびも、


眩しそうに目を開け、

目覚める朝も、



二度と隣で

見る事は許されない。



死とは

そういうものなのだ。



寂しさや、


苦しさや、


悔しさや、


絶望が僕の中に

みるみる溜まっていき、


それは怒りにも似ていて、


誰かが

僕に火をつけたら、


僕は核爆弾のように

爆発しそうだった。

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