第7話

「…来月の十五日だ」



アカネはビクッと肩を強張らせ、

しばらく黙っていた。



それから

彼女はたくさん泣いた。


泣いて、


泣いて、


泣いて、


泣いて、


泣きじゃくった。


その肩を壊れるほど

抱きしめて、


僕は涙を堪えていた。


それから

またキスをした。


涙に濡れる頬に、

瞼に、そして唇に。


そのやわらかな感触は

涙に濡れて

少ししょっぱかった。


「愛しているよ、


過去も未来も今も

全てで君を愛してる」


誰かに

“愛している”と言ったのは


生まれてから

初めてだったと思う。


今まで照れくさくて

言えなかったけど、


その時、

僕の中には


照れくさいなんて感情は

少しもなかった。


それよりも、

胸に差し迫るこの想いを


どうにか

アカネに伝えたくて


むしろ“愛してる”

なんて言葉なんかでは

ちっとも足りなかった。



だから、

僕は彼女を纏っていたものを

全て脱がせ、


彼女も同じようにした。


今までとは

全てが違く思えた。


互いの肌のぬくもりを

体中で感じ合い、

伝え合った。


言葉

なんていらなかった。



そこに思春期の

欲情のようなものは

一つもなくて、


生まれたままの

本能というか、


熱というか、


アダムとイヴが

初めて知恵の実を

かじった時ような


神秘的な何かがあって、


その瞬間、


二人以外の全ての世界は

消え去っていた。

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