第30話

きっと俺は、姉ちゃんと大塔宮様をどん底まで突き落とさない限り、自分の幸せになんて興味がないのかもしれない。





でも、あと少し。



その日、が来るまで、あと少し。





俺は、正しい歴史を選びたい。



絶対に。




だからまた一手。





また俺は盤上の駒を進める。



終幕に向けて、また黒に沈む。






俺は、この歩みを止めることはできない。




絶対に。








「よく参った」



「いえ、構いません。私も主上にお会いしたかったゆえ」




ふふっと笑う。




「・・・何だ、先に申し上げてみろ」




後醍醐帝は笑った俺を見て、訝しげに眉を歪めた。



笑う俺を、少し畏れているようにも見えた。



この黒に、捕らわれて共に堕ちるのが怖いとでも言うように。






「・・・大塔宮様のことでございます」




「護良の?あやつはもう、鎌倉に送った。配流中の身だ。大和の言うとおり直義のもとにいるのだ。当分は大丈夫だろう」





その言葉に相違はない。



ないけれど、まだ詰めが甘い。





「まだ、大塔宮様の側近の方々が残っております」





側近の。



後醍醐帝は、驚いたように目を見張った。




けれどすぐに、瞳を緩めて、何も狼狽などしていないぞと振舞う。




それを見ながら、もう一度口を開く。






大塔宮様に通じるものを、




完膚なきまでに、叩きのめす。



もう二度と、這い上がって来れないように。







「側近の方々を、全員処刑に」








処刑に。




後醍醐帝は今度こそ驚いたのか、息を呑んだ。



その音が、少し離れたここまで聞こえる。




そっと、微笑む。



愚鈍な空から、光が差し込んで、世界が一瞬明るくなる。





眩しいくらいに。








「全員、殺してください」









全員。



一人、残らず。





俺は、やらなければ。





それが正しい歴史ならば。






大塔宮様の首が落ちる、その瞬間まで、冷徹で、黒に堕ちたまま。




呉羽はきっと怒るだろうと思うけれど。



自分自身の幸せを考えろと、言うけれど。

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