第二章 緋褪色

再確認

第29話

■■■■








あれから数日経って、師走に入った。




世界は愚鈍な灰色の雲で覆われて、重なり合って重みを増している。



幾重にも。





「大和様」



「え?」



振り返ると、呉羽が立っていた。





「後醍醐帝がご参内を、と」





後醍醐帝が。




「わかった、すぐに参内する。悪いけど牛車を・・・呉羽?」




呉羽が、何か不満そうに俺を見ているのに気付いて名を呼ぶ。




「・・・どうかした?」


「いえ、何も」



「何だよ、気になるよ」




言葉で繋ぎとめると、呉羽は怒ったように瞳を歪める。


ここ最近、呉羽が怒っているみたいなのは何となくわかっていたけれど。





「その態度が気に入りませぬ」





「ええ?」



拍子抜けして間抜けな声を出す。





「少しくらい動じてくださればいいのに、貴方様は何にも変わりませぬ!」





ええ?!





「何にも!!素っ気無さ過ぎます!!」



「ご、ごめん」





慌てて謝る。



何だかわけがわからなかったけれど、とりあえず。



けれどバツが悪そうに瞳をそらした呉羽を見て、何となくその意味を察する。





俺があんまりにも何事もなかったように毎日を過ごしているから、いよいよ口に出すほど、呉羽の怒りが頂点に達したのかと理解する。




何にも、変わりがないように。



男なんてそんなもんじゃないのかなと思ったけれど、呉羽に言ったらまた殴られるような気がして口を開くのはやめた。



女心がわかっておりませぬ!!なんて言って。



まあ、正直俺には女心とかわからないし。





「・・・ごめんね、呉羽」





もう一度、今度は微笑んで言うと、呉羽は「牛車の用意をして参ります」と言って傍を離れた。



その後姿を見ながら、ぼんやりと思う。





別に何も、変わらない。





俺は。





まだ俺の胸の内、黒い闇が巣食っている。



根深く。






温かいものに触れたからとて、簡単にそれが無くなるものじゃないと、何となくわかっていた。





呉羽の存在が、俺の足枷になるかどうかまだわからない。



ただ、呉羽の言った言葉が胸に引っかかっている。





幸せになるのが、怖いのか、と言う問い。

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