第28話

傍にいたい。





貴方がいて、私がいる。



それだけで、充分。





「何もいらない。貴方が生きているだけで、何も」






ここがどんな場所でも。


運命を、憎んでも。



それでも、






「私には、これ以上の幸せは、ない」







私には、これ以上の幸せは。



言い切った瞬間、彼の腕に沈む。




「・・・ヒナ!!!」




押し殺した彼の声が、耳元で鳴る。



彼の涙が、散る音がする。




切なさに、胸が締め付けられる。





「護良様・・・」





頬を付けたところから伝わる熱が、




彼の心臓の音が、



その腕の強さが、




生きている、と。






まだ、終わりなんかじゃない、と叫んでいる。






諦めるものか。


私は。




最期まで、絶対に共に生きる道を模索する。



最期まで、傍にいる。






「何て女だ・・・」



彼はふっと笑って呟いた。


私も笑う。




「開口一番に、帰れ、だなんて、何て人」




彼も声を上げて笑った。




もう離れない。


どこにも行かない。





この銀色の鎌倉とは違う、次の色の場所が待っていてくれることを、腕の中でそっと願った。

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